Un artiste voyageur en Micronésie L’univers flottant de Paul Jacoulet
フランス語教師として東京に赴任した父について3歳で家族と来日し、日本で生涯を終えたフランス人浮世絵師ポール・ジャクレー(1896-1960)。養女のテレーズ・ジャクレー稲垣さんが遺作をケ・ブランリー美術館に寄贈したことから、今回初めてフランスで画業の全貌が紹介された。
ジャクレーは、文化的にも経済的にも恵まれた環境に育った。5歳の頃から家庭教師についてフランス語、日本語、英語、素描、音楽を学んだ。日本の小中学校にも入学している。13歳の時、数カ月フランスで過ごしたが、日本に戻ると母国のことは忘れてしまい、日本文化に没頭し、書道、浮世絵を学んだ。一方西洋美術は、フランス留学経験のある黒田清輝と久米柱一郎から学んでいる。
太平洋戦争で日米の戦場となる前のミクロネシアに、ゴーギャンに触発されて旅したときの素描と、それを基に制作した浮世絵が展覧会の主要作品だ。刺青や植物、装身具で身体を美しく飾ったミクロネシアの男女の肖像からは、おしゃれをする心意気が伝わってくる。刺青はミクロネシアの文化から次第に消えていったので、ジャクレーの素描は文化人類学的な点からも評価されている。
面白いのは、肖像画の中に、植物も昆虫も人物と同じ重要性をもって描かれていることだ。これは西洋人ではなく、日本人の感覚だ。けれども、醸し出されるものは日本人の画家のものとも違う。人体の描き方は、同時代の日本人洋画家よりもはるかに立体感がある。美術は日本で日本人から学んだのに、この違いは何だろうか。ジャクレーの作風から思い出すのはフランスを終の地に選んだ藤田嗣治だ。フランスと日本の感覚がどちらかに偏らずに表れている点が共通している。
ジャクレーの浮世絵の特徴は、鮮やかな色とエキゾティックな題材だ。しかし、繊細な色のニュアンスがわかる水彩画のほうが趣がある。
浮世絵の伝統に沿ってか、性器まで描いた女性ヌードもあるが、植物を描いたかのようで全然エロティックではない。背中だけ見せたミクロネシアの若い男性のヌードのほうがはるかに妖艶な色気がある。(羽)
5月19日迄。月休。
画像
«Jeune homme de Fais (Ouest Carolines) tatoué» Série Insectes.
South Seas. Paul Jacoulet 1935 Crayon et aquarelle sur papier
© musée du quai Branly, photo Claude Germain © ADAGP, Paris 2013