自分の根っこへの旅。

 『Le Premier Homme  最初の人間』は、1960年に交通事故で急死したアルベール・カミュが書きかけていた遺稿にして自伝的な同名小説の映画化。監督はイタリアのジャンニ・アメリオ。
 功成り名遂げた作家、ジャック・コルムリー(ジャック・ガンブラン)が生まれ故郷のアルジェリアに帰省する。時は1957年、アルジェリア独立戦争の最中。映画の冒頭、作家は、彼が幼少時に戦死して顔も知らぬ父の墓を探す。母校アルジェ大学での講演は「アルジェリアはフランスだ」と主張する一派の怒号にかき消され、悲しい思いをする。一人暮らしの老母を訪ねると、昔なじみの町びとから「僕らが戦争してるって本当?」と聞かれ、「そんなことないさ」と首を振る。やがて映画は彼の生い立ちの回想へと入ってゆく。極端に貧しい家庭で、残忍なほど厳格な祖母と彼女に服従する母、そして朴とつな叔父、全員が非識字者という環境で彼は育ったのだ。彼をこの環境に留めないために家族を説得し奨学金を受けることをすすめたベルナール先生(ドニ・ポダリデス)への恩は、一生忘れない。
 この作品は自分の根っこ(racine)への旅。生まれ育った土地への愛、育んでくれた人々への愛、それは国とか人種を越えて存在するものだ。そんな思いが作品全体から溢れ出る。恩師は「自由・平等・博愛の精神は、ここではいったいどうなっているのだ?」と嘆く。確かにアルジェリア独立戦争に対してフランスのとった立場や行為は、今もフランスの恥部として隠されている部分が多いようだ。一方で、カミュ=コルムリーもそうだが、ピエ・ノワールと呼ばれる北アフリカで生まれ育ったフランス人の心境は複雑だ。祖国だと思っていた土地が実は先祖が植民地化した土地だったわけで、後ろ髪を引かれる思いでそこを去らざるを得なかった。主演のジャック・ガンブランの一挙一動に感動。風格のある作品だ。(吉)

『Le Premier Homme最初の人間』


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