Dorsaf Hamdani “Pricesses du chant arabe”
チュニジア出身、舞台姿も優雅な美人歌手ドルサフ・ハムダニの新作は “Princesses du chant arabe”。そのアラブの歌姫とは、ウム・カルスーム(1898-1975)、アスマハン(1917-1944)、ファイルーズ(1935-)の三人。アラブ世界で今も圧倒的な人気を誇る彼女たちの名作に、ハムダニは正面から取り組み、一曲、一曲、丁寧に歌っていく。
最初の2曲は、1970年代のレバノン内戦中もベイルートを離れず、民衆の心を歌い続けたファイルーズの代表作。ファイルーズはバックの演奏が大げさになりがちなのが欠点だったが,このアルバムでは、アシ笛のネイ、ヴァイオリン、打楽器といったシンプルな編成のバンドがバックで、一層その抒情が引き立つ。『Rajeen ya hawa』はネイとの掛け合いが一級品だ。
続くアスマハンの『Layali el ons』は、このアルバムの山場。アスマハンは、トルコに生まれエジプトに亡命し、27歳で亡くなった本物のプリンセス。この曲は、やはりアラブ世界の人気歌手だった兄のファリッド・エル・アトラッシュ作曲。ハムダニは柔らかいベルベットのような美声で、愛のせつなさを歌い切る。やはりアスマハンの、「ア〜ウア、ア〜ウア、好きよ。好きなのよ」と繰り返される『Ahwa』もいい。バックの演奏にも熱が入っている。
カルスームの3曲も、ハムダニはその名に屈せずおどろくほどみごとに歌っているのだが、演奏時間が短いせいもあり、史上最大の歌姫の即興にはどうしてもかなわない。
毎日のように聴いても決して飽きることのないおすすめ盤です。(真)