
欧州委員会のステファンヌ・セジュルネ副委員長は3月4日、欧州連合(EU)の工業促進法案(Industrial Accelerator Act)の内容を明らかにした。EU域内のGDPに占める製造業の割合を現在の14%から2035年までに20%に押し上げ、不透明さの増す国際情勢のなかで供給の安全を確保するのが狙いとみられる。
仏紙によると、このEU法案は、米国や中国へのEUの経済依存が国際政治上の道具として使われることを避けたいという思惑がある。「強靭な産業基盤なしには、欧州の福祉社会、気候変動に応じた移行、戦略的自立はかなわない」とセジュルネ氏は言う。
フランスなどは以前から「メイド・イン・欧州」を唱えてきたが、欧州産業界の圧力もあり、加盟国の歩調がそろわずにいた。しかし、中国が昨年、レアアースや半導体の輸出を制限したことから、ドイツなどの反対派も同調する姿勢を見せている。
鉄鋼などの重工業、脱炭素エネルギー、自動車などの分野で公共事業や国の補助金などを得られる企業の条件を、少なくとも生産の一部がEU域内にあることを条件にする。たとえば、EV車やハイブリッド車の部品の7割がEU内で製造されていれば、こうした製品の企業による購入を国が支援したり、原子力発電産業でも原子炉を構成する戦略的部品のうち2つが欧州製なら国の補助金を受けられるといったことだ。
さらに、EU域内への域外からの投資については、バッテリー、EV車、ソーラーパネルなどの戦略的分野では従業員の半分以上はEU在住者であることも求められる。これは、たとえば欧州に進出する中国企業では、多数の中国人を本国から連れてくるケースも多く、欧州への技術移転を阻んでいるとEUから批判されている。
この法案は、今後、各加盟国および欧州議会の承認が必要であるが、難航が予想される。仏、伊、西などは法案に賛成だが、ドイツや北欧諸国はより英米に配慮した内容を主張する。もちろん中国や米国の反発を招くのは必至だが、実現可能性にも疑問は残る。マクロン大統領はコロナ禍の2020年に不足医薬品の国内生産回帰のために国が支援する方針を打ち出したり、その後も製造業の国内回帰を唱えてきたが、エネルギー価格高騰などで生産コストが上昇し、あまり実現されていない。「メイド・イン・欧州」がうまくいくのかにも大いに疑問が残る。
中東情勢で原油の輸入が滞り価格高騰しているなか、フォン・デア・ライエンEU委員長は10日、パリで開催された原子力エネルギーサミットで、福島原発事故後に原子力エネルギーの割合を減らそうとした政策は「戦略的な誤り」だったとし、小型のモジュール原子炉開発を進めるべきで、こうした革新的原子力テクノロジーへの投資のために2億€の保証枠を創出すると発言した。こうしたEUのエネルギー主権のための動きも、EUが独立性を確保する政策に舵を切ろうとする意思を示しているようだ。(し)
