
欧州連合(EU)と南米南部共同市場(メルコスール)の間で1月17日に調印された自由貿易協定に関して、欧州議会は21日、同協定がEUの諸条約に適合するか否かの判断を欧州司法裁判所に求めることを賛成334票、反対324票の僅差で可決。議会前に集まった欧州各国の農民は喜びを露わにした。これにより、EU委が協定の仮執行をする可能性はあるものの、欧州議会による協定批准は1年半延期される可能性が出てきた。
EUとメルスコール(ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ)の間の自由貿易協定は関税が90%以上撤廃されるため、EUは自動車、機械、ワイン・蒸留酒などの南米への輸出が、南米は肉、砂糖、米、大豆などのEUへ向けての輸出がしやすくなる。仏、伊、ベルギー、ポーランドなどの農家は、EUの衛生・環境基準を守らない安価な農産物が入ってきて打撃を受けると反対の声が根強い。
20日は欧州の農民およそ5500人がストラスブールに集まって抗議運動を展開。フォン・デア・ライエンEU委員長はそれに先立つ7日、農民の怒りを鎮めるためにEUの農業支援資金のうち450億€を前倒しで使用するよう加盟国政府に促した。仏政府も同日、EUで使用禁止のマンコゼブなど5種の殺菌剤や除草剤を使用したアボカドなどの農産物の輸入を禁じる政令を発布し、EU閣僚理事会で同協定には反対票を投じた。
フランスでは結節性皮膚炎(ランピースキン病)にかかった牛の群れ全体を殺処分する政府の措置に対して、12月半ばから農業従事者の抗議運動が始まっていた。このウイルス性感染症は、皮膚にしこりができて体重減少や乳量低下が起きるが人には感染せず、畜産物も安全とされている。ただし感染力が強いため、仏政府は1頭でも感染が確認されると群れ全頭を殺処分する厳しい対応を実施。感染が確認された群れの数は1月5日時点で全国117に上る。ワクチン接種も進んだが、免疫が確立される前に感染牛が出るケースもあった。農業団体は高速道路や製油所への道を封鎖したり、地方行政機関の建物前に家畜の糞尿やタイヤを投棄する抗議運動を、年末年始のほぼ1ヵ月間、全国で展開した。

こうした抗議運動の高まりを受けて、ジュヌヴァール仏農業相は9日、損害を受けた農家への支援資金を倍増して2200万€にすると発表。また、ブドウの木の引き抜き(減反)への支援金、農家への社会保険料の軽減など合わせて3億€規模の農業支援策を約束した。それでも11日には31県で55件の抗議運動が行われ、2400人とトラクター約1000台が参加し、抗議運動は鎮火せず、13日にはルコルニュ首相も農業用水、オオカミによる家畜被害の問題など緊急課題に対応する農業法案を2月末までにジュヌヴァール農業相に用意させると約束した。各農業団体は、農業用貯水池の建設許可を取りやすくしたり、大規模畜産飼育場の建設を容易にするよう規制緩和を盛り込んだデュプロン法の施行を求めて抗議運動を継続する方針だ。
2月21日~3月1日にパリで開催される農業見本市には、感染を恐れる農民の意向を受けて牛は参加しない。各地方から多様な牛が見本市に集まるのは1964年の見本市発足以来の伝統で、入場者に人気もある。今年は牛のいない寂しい見本市になりそうだ。(し)



