小さいけれど、スケールの大きい町、Pantin。
パリの隣町パンタンに、どんどん人や文化が集まってきている。ウルク運河を中心に工場跡地などを利用して作られたカフェやレストラン、展覧会場。産業遺産を再利用した施設はスケールが大きく、広くゆったりしていて、子どもたちものびのびと遊んでいる。エルメスの立派な社屋前にマルシェが立ち、れんが造りの古い住宅と高層住宅が共存する。
ウルク運河が1825年に開通し、鉄道の駅が64年に造られるとパンタンの町は大きく変化した。オスマン=セーヌ県知事が「パリ大改造」を進め、パリの町が美化・衛生化されるのと裏腹にパンタンなどの郊外には工場や倉庫が多く造られたが、経済成長期も終わり工場がよそへ移転してゆくと、巨大な空の建物が残された。町の北端と南部を国道2号と3号、町なかを県道20号、115号が走り、パリ環状道路もすぐそば。国鉄やRERもあるので数多くの電車が通過する。「住みやすい町」づくりにはハンディに見える町の構成だが、「町をよくしたい、楽しいことがしたい」という情熱とアイデア、実行力を持つ人がいれば町は変わる。倉庫跡だって高架道路下だって楽しい場所になる。そう実感させられるパンタンの町の散策に出かけよう。(集)
パンタン「Tiers-lieu 3番目の場所」へ。
〜誰もが居場所を見つけられる〜
「The Third Place」とは、第1=家、第2=職場、その次にくる「3番目のヒトの居場所」という、アメリカで60年代に生まれた概念だという。フランスでは「Tiers-lieu(ティエール・リュー)」は、市民団体などが運営する「エコ・ヴィラージュ」的な場所として10年ほど前から行政的にも認知されるようになった。パリでもフランス国鉄の跡地を使った「ル・グラウンド・コントロール」(Ovni849号)や、「ラ・ルシクルリー」(781号)などの例がある。ボルドーではDarwin Ecosystème が人気を博している。
使われなくなった産業跡地、兵舎などを再利用した複合的な施設。でも、単に客がお金を払ってサービスを享受するのではない。そこでの活動は環境に配慮し、人々が協力してものを作ったり、 社会のためになるアクションを行う。様々な社会層の人たちが出会うmixité(混交)も大切な要素だ。そのためには、お金がない人でも参加できるよう、様々な料金をできるだけ抑える努力も必要となる。
パンタン必見。10月までの期間限定エコヴィラージュ「La Cité Fertile」(地図中1)
SNCFの貨物駅舎跡を再利用したシテ・フェルティルでは、日々110人が働く。敷地内で醸造されるビールを提供するバーと食堂「La Source」が充実。パン祭など大勢の人が訪れるイベントや、養蜂箱(ハチミツ100kg収穫!)や畑に小学校生たちが課外授業に来るなど地元の人たちとの交流も。トイレには固形物と液体を分けてタンクと下水道へ排出する必見の便器があり、1回につき5ℓ節水できるという。
また、ここで使われる家具の8割が中古。いにしえの駅の待合室を思わせるインテリアのセンスも抜群だ。「サードプレイス」を自分でも始めたい人のための講座「Le Campus Tiers-Lieux」も。4年間限定の活動期間中コロナで休止の期間が長かったが、今年10月末で終了だ。3月6日までの週末はエコな遊園地Cité des Merveillesが楽しめる (土:12h-01h、日:12h-20h)。
14 av. Edouard Vaillant
www.citefertile.com
月-水:12-18h、木-土:12-01h、日:12h-18h
Les Relais
30年来、パンタン活性化の牽引役(地図8)
壁画に惹かれて近づくと、菜園とテラス、レストラン。ここは30年前から県や地域圏と連携して、社会復帰をめざす人やがレストラン研修をし、その後の就活のためのアシストをする団体。研修生たちが準備する料理が食べられ昼はテイクアウトコーナーも。週の後半には討論会、カラオケ・ナイト、ヒップホップ・バトルなど、文化イベントも開催。
61 rue Victor Hugo
01.4891.3197
月 : 9h-18h、火〜土 : 9h-00h
www.facebook.com/lerelaispantin/
La Réserve des Arts
アーティスト御用達、資材リサイクルの場(2)
ラ・シテ・フェルティルと同じ敷地内にアート関係者が通うリサイクルの素材屋さんがある。3000m²の倉庫に布、皮革、金属、木材、展示用家具などが並ぶ。アーティストふたりが立ち上げた協会で7500人の会員が利用。会員でなくても自由に見学、買物ができる。Cité Fertile と同じ住所。
オヴニー特製・パンタン散歩地図
Galerie Thaddaeus Ropac(3)
19世紀の金物製造工場を改装した世界有数の現代美術ギャラリー「タデウス・ロパック」。巨大な空間で大作品を堪能できる。 5/11までは「アンゼルム・キーファー 詩人へのオマージュ」展。
火ー土 : 10h-19h
69 av du Général Leclerc
「世界屈指のアートギャラリーをパンタンに訪れる ー Thaddaeus Ropac」も合わせてお読みください。
Magasins Généraux パンタン文化発信地(7)
運河の水辺に、一見いかつい鉄筋コンクリートの建物。1929年築の、主に穀物を貯蔵した倉庫だ。50年代には使われなくなり廃墟となっていた2016年、広告代理店BETCが本社を置いてから、ここがパンタンの文化発信の中心地に。
2万平米の建物の1階にはギャラリー。3/13まで、エルメスのレジデンス・アーティストの作品展*Formes du transfert。自社工房にアーティストを滞在させ、職人と協働で作品を創るエルメスのレジデンス制度が10年になるのを機に、そこで創作された作品を展示。開館時間はイベントにより異なるが、この展示中は水~土 13h-20h。ふだんは、やはりコンテンポラリーアートの展覧会、古着市などもある。
*Formes du transfert展
Magasins Généraux :
1 rue de l’Ancien Canal
/https://magasinsgeneraux.com/fr/
Dock B (7)
倉庫跡の広いスペースは、ちょっといいフードコート。
レ島出身の兄弟がやっている貝類の店 Juste (ツブ貝7€、カキ6個9€、ミュスカデ4€)と、コルシカ島がテーマの店Gustu(ピザ11€など)があるフードコート。広くて大テーブルもあり子ども連れや大家族の会食などに便利。(マガザン・ジェネロと同じ建物1F)。
木金16h-22h、土日 : 12h-00h。
Eau Canal 運河を眺めてゆったり時間。(10)
窓から運河の眺めがよく、アルジェリアはカビリア出身のお兄さんたちの暖かいサービス。ランチは前菜+主菜か、主菜+デザートで14.5€。
1/3 Av. Edouard Vaillant 01.4171.8957
Le Bienvenu コスパの王様!(4)
サービスが速い・安い・うまい、人がいい!! メニューには毎日クスクスがあり、メインのみ9€、前菜+主菜+デザート(またはコーヒー)のメニュー+ワイン1/4ボトルがついて13.50€!! ギャラリー・タデウス・ロパックからは徒歩2分ほど。
月~土 : 8h-20h。
103 av. du Général Leclerc
Gallia
毎日がお祭りみたいな醸造所/バー(11)
多くなった小規模醸造所のなかでも、2016年に始めた先駆的存在。広いテラスや遊技室、バーの小ステージではジャムセッション、漫才なども。FBでプログラムをチェック。
Bar Gallia Pantin :
35 rue Méhul. 01.5714.5672
月〜金 : 17h-00h 土: 12h-00h 日:15h-23h。
Grandes serres 計画(9)
赤レンガ造りの11,000㎡の建物は1930年代に造られた鉄管工場。この建物の壁や鉄柱は残してガラスで覆い、職人の工房、オフィス、スポーツ施設、レストランなどの複合施設「グランド・セール(大きな温室)」計画が進行中。2017年からアーティストのレジデンスや、コンサート、ファッションショーなどが行われている。 両岸をつなぐ橋も造られるという。
lesgrandesserresdepantin.com
Grands Moulins パンタンのランドマーク(14)
環状道路からも見える建物は、1848年築の仏国内最大級の製粉工場。今はBNPパリバ銀行の社屋となっている。周辺にはピザ屋、ブラッスリーなどもある。
Parc Diderotとその周辺(6)
運河があるパンタン南部に比べ開発が遅めの北部でも、高層住宅のふもとに子どもが泳げる池もあるディドロ公園や、製糸工場跡を再利用する文化施設が整備中。
地図外「Bonjour Pantin」編集人、ピエールさんとマリーヌさん。
パンタンって楽しそう!と、見ていると出かけたくなる情報がいっぱいのサイトBonjour Pantin。2016年、ピエールさんがこの町に移住してから「 93(セーヌ・サンドニ県の県番号)につきまとう偏見をぬぐって、街のよさを知ってほしい」と立ち上げたシティ・ガイド。今はマリーヌさんとふたりで編集している。
セーヌ・サンドニ県のアーティストの作品を集めて展示会をしたり、オンラインブティックで販売したりもしている。スペース不足で紙面に掲載できない、ふたりのおすすめレストラン(16)は、後日紹介!
www.bonjour-pantin.fr
https://bonjourlestalents.fr/