衛生パスを「ワクチンパス」に切り替える法案が1月6日、国民議会で賛成214票、反対93票、棄権93で可決された。同法案は上院審議を経て憲法評議会の承認を得れば、1月半ばにも施行される予定だ。
法案は、文化・娯楽施設、飲食店、見本市、飛行機、長距離列車・バスなどの利用に提示を義務づけられている衛生パスをワクチンパスに転換し、従来の検査陰性証明を無効にするもの。対象は12歳以上だが、スポーツ・文化の課外活動では15歳までは適用外とする社会党議員の修正案が可決された。
また、パスが求められる場所でパス確認を怠った責任者は初回から1000ユーロの罰金が科され、パスが疑わしい場合には身分証明書の確認も行うことになる。他人のパスを使った人には罰金が現行の135ユーロから1000ユーロと罰則も厳しくなる。偽パスの所持者には最高禁固5年、罰金7万5千ユーロ。内務省によると昨年12月末時点で19万2483件の偽パスが摘発されている。ただし、偽パスを使った人が30日以内にワクチンを接種すれば罰されない。
「服従しないフランス」党や共産党は、同法案はワクチンを実質的に強制するもので、国民を分断し非接種者を過激化させると主張し、むしろ病床の確保や医療スタッフを増員すべきとして強く反対した。3日には24時に審議中断が挙手で採決され、5日にもマクロン発言 (ワクチンを打たない連中をうんざりさせたい)に怒った野党議員の抗議で議場が騒然となり、カステックス首相が大統領発言の擁護に駆けつける事態に。結局、共和党や社会党議員の票が割れたこともあり、6日未明に賛成多数で可決された。
マクロン氏は大統領選を意識してわざと過激な言葉を使ったという仏紙の分析もある。経済活動に影響を及ぼす各種規制をできるだけ回避してワクチンによるコロナ危機克服の方針を明確にし、姿勢の定まらない共和党や、ワクチン反対派を擁護する極右との対比を浮かび上がらせる戦略だという。
だが、与党議員宅への落書き、自動車放火、脅迫状などワクチン反対派が過激な行動に走る現象も目立つ上、8日のワクチンパス反対デモは勢いを盛り返して全国で10万人が参加。ワクチン接種率の低い海外県では3月末まで緊急事態になり不満はくすぶり続ける。グアドループの大学病院では今月4日、幹部を監禁する事件も起きた。ワクチン推進策はいいとしても、権利擁護官が4日に「(ワクチンパスは)自由の制限」との勧告を出しているように、「強制」というやり方が効果的なのか、疑問は残る。(し)