元サッカー選手のエリック・カントナが初めてテレビドラマ『Dérapage』に出演、アルテ局で放送される。原作はゴンクール作家のピエール・ルメートル(Au revoir là-haut「天国でまた会おう」)の『監禁面接 Cadre noir』。すでにArte.tv では全6話が視聴可能だが、テレビ放送は4月23日(木)と30日の20h55から。
カントナ演じる主人公アラン・ドランブルは57歳。人材マネジメントの責任者だったが6年前に失職して以来定職が見つからず、友人と会う、と妻に偽って夜中にパーキングの掃除の仕事などもする。失業による屈辱的な経験が重なり人の言動にカッとなり、短期の仕事を見つけても上司に「頭突き」で怪我を負わせ、裁判で多額の罰金を命じられるなど、不運が不運を呼ぶ悪循環の真っ只中にいる。
早く職を得なければローンも払えずアパルトマンも手放さないといけなくなるし、妻も去って行くだろう。焦るアランのもとにある日、大手航空機製造のエクシアから面接の知らせが届く。勇んで出かけるアランだが実はエクシアは、人員削減のために人質立てこもりを装い、究極の状況での管理職たちの言動で人選をしようと企んでいた。アランはポストを得るために、そのエセの人質立てこもりをセキュリティー管理室のカメラで見ながら、管理職たちの会社への忠誠心を試す質問をする指令を出さなくてはいけない。
ドラマのタイトルは「Dérapage 逸脱」。人間よりも営利を優先する社会、仕事がないと普通の社会生活ができない現実社会の「逸脱」。エクシア社のモラルを逸脱した人質立てこもり計画。アランは社会の被害者としてそのオファーを受けるのだが、これだけならありがちな社会派ドラマ。それよりさらに逸脱して狡猾に生きようとするのが、カントナ演じる主人公アランだ。
カントナは数々の伝説を残したサッカープレーヤーだから、若い人でも名前は聞いたことがあるだろう。1966年マルセーユ生まれでフランス代表も経験したが英国マンチェスター・ユナイテッドの黄金時代を築き「キング」の愛称で特に英国で絶大の人気を誇る。フーリガンに蹴りを入れた「カンフーキック」などの悪童ぶりもプレーとともに有名だが、率直さと、貧しい人の住宅問題、移民問題、金融危機後は倫理的な経済システムを構築するべく「銀行を空にせよ」と、銀行から金をおろすことを人々に呼びかけるなどの社会的立場からもフランスで特異な位置付けの「アイドル」。サッカー引退後は映画、舞台などで活躍する。
ドラマの主人公アランの得意技は頭突き(ヘディング)、ミステリアスな人物像もカントナ本人と重なる。コミック俳優のアレックス・リュッツが大会社エクシアのシニカルな若社長役を演じるなど絶妙のキャスティングだ。