歌姫ルアンヌ・エメラが主演の前作『エール!(La Famille Bélier)』は、動員数770万人のメガヒットを記録。そんなエリック・ラルティゴ監督、5年ぶりの新作は、彼の別のヒット作『Prête-moi ta main』で主演のアラン・シャバを再び起用した。エンタメ界をかき乱し続けるシャバも、今やグレイヘアが似合う年齢に。本作ではレストランを営むオーナーシェフ役が板に付いている。その脇を国際派女優ペ・ドゥナや花形ユーモリストのブランシュ・ガルダンが固めるなど、俳優のコラボレーションも見どころだ。
緑豊かなバスク地方。人気シェフのステファン(アラン・シャバ)は、写真共有型SNSのインスタグラムを介し韓国人女性スー(ペ・ドゥナ)と繋がる。やがてネット上の交流に飽き足らず、勢い余って桜の季節にソウルへと飛ぶ。しかし、空港にスーの姿がなく…。 『パリ空港の人々』、『ターミナル』のように空港から出られぬ男の物語。だが、言葉も通じぬ異国の空港でも、ステファンは意外と楽しそうだ。他人と撮ったセルフィーの投稿は、予想外の出来事を引き起こす。
世相を反映したロマンティック・コメディだが、メディア風刺も人間ドラマもやや深みに欠けるのは惜しい。とはいえ、本作の製作の裏側は興味深い。本作はKOFIC(韓国映画振興委員会。日本には同種の公的機関がない)の協力のもとに作られたフランス映画で、ワールドプレミアは昨年の釜山映画祭。またソウルの仁川国際空港が舞台となっているが、目の覚めるような近未来的な設計は、建築的価値が高いザハ・ハディドの幻の新国立競技場案を思い出させた。この映画を見ていると、もはや文化面で韓国の後塵(こうじん)を拝する日本の現実まで透けて見える気がした。(瑞)2月5日公開