北斎や広重が描いた富士と、川端康成の小説『雪国』を2つの柱にして、富士と雪景色をテーマに7月に始まった展覧会が秀逸だ。ギメ美術館の所蔵品から、江戸から大正時代までの錦絵、肉筆浮世絵を主に展示している。富士には構図の面白さ、意外さで見せる作品が多い。歌川広重(初代)の「深川洲崎十万坪」は、大鷲が雪で覆われた洲崎の上を空高く舞いながら獲物を狙っている場面を描いた傑作で、広重の「名所江戸百景」の中でも特に人気が高い「三役」の一つと言われている。同じく広重の「木曽路之山川(雪月花の内 雪)は、雪を抱いた山が怪物のように画面の大半を覆う、この世のものとは思えない風景である。
通称「青富士」と呼ばれる葛飾北斎の「冨嶽三十六景 凱風快晴(藍摺版)」は、「赤富士」と呼ばれる「富嶽三十六景凱風快晴」と同じ版で、オランダから輸入されたプルシャンブルーを使って摺ったものだ。世界に6点しか確認されていないという貴重な一枚である。赤富士より抽象度が高く、そのモダンさは驚嘆に値する。大正時代では、川瀬巴水の「雪の寺島村」が素晴らしい。大正時代に今の墨田区にあった村の雪景色で、夕餉(ゆうげ)の匂いが漂ってきそうな、生活感と哀愁が漂う作品だ。10月12日まで。(羽)
Musée Guimet
Adresse : 6 place d’Iéna, 75016 ParisURL : www.guimet.fr/event/fuji-pays-de-neige
火休 10h-18h 11.50€/8.50€ 土日13h〜は要ネット予約 www.guimet.fr/event/fuji-pays-de-neige