Tian à la provençale
プロヴァンス地方の太陽を浴びて育った、トマト、クルジェット、ナス、ピーマンを煮込んだ料理がラタトゥイユなら、オーブンで焼くとティアン。南仏ならではのタイムやニンニクの香りがうれしい。ティアンには本来ピーマンが入らないと言う人もいるが、赤や黄色のピーマンを加えれば彩りも美しいし、独特の甘みが味を豊かにする。ナスはなるべく細いものを選びたい。
4人分なら、30センチ×25センチくらいのオーブン皿を用意。余って冷めたものも、翌日素敵なサラダになるので少し多めに作るのが正解だ。そのオーブン皿に、切れ目を入れたニンニク1片をしっかりとこすりつける。野菜がくっつかないようにオリーブ油を大さじ3杯ほど流し入れる。
トマトもクルジェットもナスも皮ごと7ミリくらいの厚さに輪切りにする。ピーマンは、大きかったら二つに割って、へたと種をのぞいてから同様の厚さに切り分ける。紫玉ネギは少し薄めに輪切り、残りのニンニクは薄皮をむいてからやはり薄く輪切りにすれば、野菜の準備完了。このへんでオーブンの目盛りを180度に合わせて点火。
たとえば、トマト、クルジェット、ピーマン、紫玉ネギ、ナス、ニンニクの順に次から次へと重ねていくのだが、少しだけ傾けて、できるだけきっちりと野菜の高さが同じになるように、重ねていくのがコツだ。その上から、軽く塩、コショウし、オリーブ油をかけまわし、タイムの葉を散らし、熱くなっているオーブンに入れるのだが、最初の30分はアルミホイルでおおった方がいいだろう。ホイルをとってからもう30分ほどで、軽く焼き色がついてきたら本格的なティアンのでき上がり。肉や魚のグリルの夏らしいお供になる。
ぼくは、南仏の人がLoup(オオカミ)と称して好むスズキのポワレを合わせることが多い。魚屋に頼んで皮付きでおろしてもらう。両面に塩、コショウ、タイムの葉も振りかけ、フライパンにバターと油を半々にとり、きれいな焼き色がつくように焼くだけだ。ワインは、キリッと冷やしたプロヴァンスのロゼ。(真)
4人分:トマト4個、太めのクルジェット2本、ナス1、2本、赤か黄色のピーマン1個、紫玉ネギ1個、ニンニク6片、オリーブ油、タイムの葉適量、塩、コショウ
Tian
“tian”はマグレブの人たちが使っている“tajine”と同じ語源らしく、どちらも熱に強い陶器製の器の名前であると同時に、それを使った料理名でもある。ティアンは、以前は自宅で用意したものをパン屋に持っていき、パン焼きの後の余熱で焼いてもらっていたという。重ねた野菜の間にモッツァレラチーズの薄切りをはさんで焼くと、おいしいパンさえあれば、それだけで立派な一食だ。冷めたものは、バルサミコ酢をさっと振りかけて混ぜ合わせると素敵なサラダ。生だと味が薄いトマトもローストされて濃い味わい。ぼくは半熟のゆで卵を添えることにしている。
Cuisine provençale
プロヴァンス地方は地中海の温暖な気候に恵まれ食材も豊富。プロヴァンス風料理にはオリーブ油、トマト、ニンニク、バジリコやタイムなどの香草が活躍する。ピサラディーエル(玉ネギとアンチョビーのピッツァ)、クルジェットの花のベニエ、ニース風サラダ(879号)、ラタトゥイユや今回のティアン、アイオリ(769号)、ブイヤベース(723号)、バジリコの香りを生かしたヒメジの包み焼き(862号)、タイとフェンネルのロースト(749号)、ブランダード・ド・モリュ、ドーブ・プロヴァンサル(823号)…。
Côtes de Provence
「性格不足で赤でも白でもないどっちつかず」などとさげすまれてきたロゼだけれど、冷やして飲むさわやかさが受けているのか、最近は若者を中心に人気が上昇中。品質が向上して味わい深いロゼが増えてきているのも事実だ。ロゼといえば、真っ先に頭に浮かぶのがコット・ド・プロヴァンス。グルナッシュ、サンソーといった黒ブドウが原料だが、あくまでもすっきりとした飲み口が売りもので、夏の食卓には欠かせない。ローヌ川の近くで作られているタヴェルのロゼは薄いルビー色、その上品な味わいはロゼでは一番という人が多い。