南フランスの 夏やすみ。その1

 久しぶりに聞く蝉の声。坂道を登りつめると、さらに細い小路がのびている。ひなげしや夾竹桃が咲き乱れる石段をのぼると、眺めがひらけた。

ここローヴの丘の上からは、セザンヌが何十回も描いたサント・ヴィクトワール山が、澄んだ空の下にくっきりと見える。丸いシルエットのオリーブの木、細長い糸杉、斜めに伸びた松の大木が織りなす南フランスの自然の造形美。この風景に心を動かされた画家と、時を超えて何かを共有したような気分に浸るひとときだ。 

今回は、エクサン・プロヴァンスを拠点に日帰りの小さな旅をして、そこに暮らし、文化の種を蒔いた人たちの家を訪れた。日本の人なら小学校の図書室などで一度は手にしたことがあるだろう『ファーブル昆虫記』のジャン=アンリ・ファーブルが観察や実験を行った家と庭。『木を植えた男』など、マノスクやその周辺の自然や村が舞台の小説を書いたジャン・ジオノの家。生まれ育ったプロヴァンスを愛し描いたセザンヌのアトリエ。コロナ後、まだ全てはオープンしていないけれど、その分、人も少なめの南の町を楽しんだ。(六)


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南フランス特集号 特別スポンサーのみなさま(ABC順)

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Ecrins de France (旅)、マルセイユのお惣菜屋 HAKO+(食)、HIS(旅)、
ニースのマッサージサロン IYASHI(健)、オリジナルバッグのKogamina(装)、
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南フランスのおすすめこちら
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エクスを拠点に訪れる、南フランスの旅。


セザンヌと一緒に歩くエクスの町。

エクサン・プロバンス Aix-en-Provence

 
 プロヴァンス地方の文化の中心都市エクス。名前はラテン語の「アクア/水」に由来し、「水の都」としても有名だ。紀元前、ローマ人が湯治の町として浴場を造り、その遺跡の上に今もSPAがある。町なかには大きなプラタナスの大木が木陰をつくって、その下の噴水が人々の憩いの場となっている、まさに南仏の魅力的な街だ。今回はこのエクスを中心に、近くの町へ足を伸ばした。

エクスの数ある噴水のなかでも大きなロトンドの噴水前にあるセザンヌの銅像。

 エクスの町に行ったら、まずはカフェ「レ・ドゥ・ギャルソン」で乾杯しようと楽しみにしていた。セザンヌとゾラが仲よかった頃はふたりで訪れ、ピカソやパニョル、古くからエクスに住むユダヤ人一族の末裔だという作曲家ダリウス・ミヨー、アラン・ドロンも通ったという伝説のカフェ。そして毎夏、オペラ・フェスティバルの期間中はディーヴァたちも出没するというから、旅のスタートにふさわしいと思ったのだ。

ところがカフェは昨年末、火災に遭ったという。地元の新聞によると、どうやら放火だが警察も確定できないまま公には「原因不明」となっているとのこと。伝説のカフェがある「クール・ミラボー」にはカフェテラスがずらっと並んでいるから、まずはプロヴァンスのロゼで乾杯した。

 セザンヌは画家になりたかったが、彼の父親は自分が設立した銀行を継がせたがったという。そんなセザンヌの父親が購入した立派な邸宅「バスティッド・デュ・ジャズ・ド・ブファン」は工事中で見られず、ビベマス採石場は観光局のバスツアーでないと入れないが今はコロナ対策で運休。だからまずは、晩年のアトリエを訪れることにした。

セザンヌのアトリエ。

 セザンヌは1901年、ローヴの丘の家と7千㎡の、オリーブといちじくの木がたくさん植わっている農地を買って、アトリエにした。今もこの辺りを歩いていると、所々に残っているいちじくの木が夏の太陽に照らされて甘い香りを放っている。

セザンヌが住んでいた旧市街のブルゴン通りからアトリエへ行く道は、のぼり坂だが30分程度の距離(セザンヌは歩いて通っていた)。6時から10時半まで絵を描き、家に戻って昼食、その後アトリエやローヴの丘の上でサント・ヴィクトワール山を描いた。

季節や天気、時間によって色の変化する山を執拗に、油彩44点、水彩43点も遺したセザンヌ。描きに通っていた丘は今ではTerrain des peintresという公園のようになっている。ある日、雨に降られながら絵を書き続けたせいで倒れ、家に担ぎ込まれた。胸膜炎で数日後に亡くなった。「絵を描きながら死にたい」と言っていたセザンヌにとっては、本望だっただろう。

ローヴの丘からサント・ヴィクトワール山を描く晩年のセザンヌ。
ローヴの丘「画家たちの土地 Terrain des peintres」からの眺め。地元の人が「サント・ヴィクトワール山が見える場所に家がほしい。宝くじにあたったらね。。。」と言っていたのを思い出した。
セザンヌが最期を迎えた家。旧市街のBoulgon通り23番地。13番地にはセザンヌの父親が設立した銀行があった。

 セザンヌも絵を観に通ったというグラネ美術館が有するセザンヌ・コレクションは10点。セザンヌの妻の肖像や、ゾラの肖像画などを観ることができる。

グラネ美術館は、クール・ミラボー大通りの南側、マザラン地区にある。北側の石畳の小径やブティックが並ぶ旧市街とは対照的に、大きな17〜18世紀の屋敷が整然と並ぶ地区だ。エクスはパリ、ヴェルサイユに次ぐフランス第3のバロックの町と言われ、壁の内側にフランス式庭園を擁した貴族たちの館が集まっている。クール・ミラボーがシャンゼリゼのように幅広いのも、貴族たちが馬車で通れるようにしたがったからだという。

コーモン館のサロン。奥に花あふれる中庭がある。
マザラン地区にはフランス式庭園のある館が並ぶ。こちらはコーモン館の庭園。

 同地区にある宝石箱のようなコーモン館 Hôtel de Caumontは美術センターになっていて、美術展やサロンでの音楽会、小さな庭園でティータイムを楽しめる。18世紀初頭に建てられたガリフェ館はエクス高等法院の院長を4人も輩出したガリフェ家の邸宅だったが、このお屋敷街でもいち早くアート作品を置いて一般公開するようになったという。夏季は、庭のレストランやカフェでゆったりとした時を過ごせる。(美)


エクサン・プロヴァンスで巡るセザンヌの足跡

■ エクサン・プロヴァンス

©Sophie Spiteri

◎Atelier de Cézanne
セザンヌのアトリエ
9 av Paul Cézanne 13100 Aix-en-Provence
(以下すべてエクス市内)

◎Terrain des peintres
本号の表紙にある、セザンヌが晩年サント・ヴィクトワール山を描きに行った場所。前出アトリエの前の道を登った左手にある。
49 av. Paul Cézanne 13100 Aix-en-Provence

◎Bastide du Jas de Bouffan
セザンヌの父親が買った邸宅。セザンヌは、ここで働く農夫たちを「カード遊びをする人々」「パイプをくわえた男」などに描いた。
★現在工事中のため見学不可。
17 route de Galice 13100 Aix-en-Provence

セザンヌ一家の邸宅。現在工事中。©️Sophie Spiteri

◎Carrière de Bibémus
ビベムス採石場。18世紀までエクスの町の建物に使う石を切り出していた場所。セザンヌはここの景色を描きながらキュービスムにたどり着いたと言われる。
★個人見学不可。Covidが収まったら観光局がアトリエ+セザンヌ一家元邸宅+採石場のバス見学コースを再開予定。

ビベムス採石場。©️Sophie Spiteri

◎Musée Granet グラネ美術館
エクスで発掘された古代ケルト人都市の遺跡から14世紀から20世紀までの美術コレクション、セザンヌの作品は10点収蔵。
月休、6/1〜11/1まで10h-18h、11/3-5/31まで12h-18h。
Place Saint-Jean de Malte 04.4252.8832
13100 Aix-en-Provence
www.museegranet-aixenprovence.fr/nc/accueil.html

◎Chapellerie Cézanne
1825年にセザンヌの父親が開いた帽子店跡。壁に描かれた店の名前が残っている。
55 cours Mirabeau 13100 Aix-en-Provence

町の目抜き通りクール・ミラボーにあるセザンヌ帽子店跡。

◎Les Deux Garçons
伝説のカフェだが2019年火災で消失。再建に期待したい。
53 cours Mirabeau 13100 Aix-en-Provence

◎Cimetière Saint-Pierre
Avenue des Déportés du Pays d’Aix et de la Résistance aixoise
Aix-en-Provence 13100 Aix-en-Provence
セザンヌの墓がある。エミール・ゾラの父親フランソワ・ゾラ、作曲家ダリウス・ミヨーらの墓もある。


■ パリ

◎Musée Marmottan Monet
“Cezanne et les maîtres. Rêve d’Italie”展 :
パリのマルモッタン美術館で、「サント・ヴィクトワール山」はじめとする、セザンヌ作品を一挙に60点展示 (2021/1/3まで)。
www.marmottan.fr


 

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