コスメティックといえば、フランスには有名ブランドから中小ブランドまで無数にある。香水、化粧品、スキンケア、ヘアケアなどを含むコスメ産業は仏全産業で第4位。世界コスメ市場(4250億ユーロ)のシェア25%を占める一大産業だ。ほとんどは国内で製造され、「メイド・イン・フランス」 のブランドイメージとその品質は世界から高い評価を受けている。原料から最終製品までの工場やラボは主に仏中部の「コスメティックバレー」と南仏に集中している。前者はシャルトルからシャトールーまでの6つの県にまたがり、企業は800を数え、9万人を雇用し、年商は260億ユーロに上る。
ガードの固そうなコスメ産業のなかでも、メイド・イン・フランス見本市に出品し、オープンな社風のピエール・オジェ社を、コスメバレー南端のシャトールーに訪れた。同社製品はスキンケアに特化し、エステサロンなどプロ向けが生産の半分を占め、一般向けでも薬局が主な販売拠点であるため一般にはあまり知られていない。1961年にモナコで創業したピエール・オジェ氏の開発した、皮膚の成分に限りなく近いクリーム 「Ental」のヒット以来、現在まで 「肌の構成成分と同じ成分を使って肌を再生する」という理念に基づいて製品づくりをする。サケの精巣から抽出されるDNA (保湿・皮脂分泌コントロールなどの効果)、ヒアルロン酸 (保湿効果)、ビフィズス菌 (DNA修復と赤外線のダメージ修復効果)、花のエキス、フッ素系オイル、孔雀石などのミネラルなどを用いた製品を次々と開発。「la mémoire de la peau (肌のために)」のモットーを掲げることからも、エステサロンで重用されていることがうなずける。
クリームを例にあげると、水と油 (植物・動物性オイル、鉱物油)と、その2つを混ぜ合わせるための乳化剤プラス保湿剤、香料、防腐剤が基本的な成分だ。ノウハウの要は原料の精選とその配分という非常に専門的で企業秘密に関わる部分なので、肝心のラボは見学できず、原料を混ぜるタンクやチューブや瓶への充填機械などしか見られなかった。直接肌につけるものだけに品質管理は重要で、製品は10日間寝かせる間に抜き取り検査をしてバクテリアなどが混入していないかなど厳密にチェックされる。
現社長クリスティーヌ・ヴァランさんは金融畑の実業家だが、コスメ企業で働いていた娘さんとともに、会社更生下のピエール・オジェ社を2011年に買収。製品開発も含めて100%自社製造という数少ない仏メーカーの将来性を信じ、ブランドイメージの若返りと輸出開拓に力を入れた。現在、従業員38人、年商は傘下の販売子会社などを含めると2500万ユーロ。生産量の3分の2は輸出が占める。韓国、オセアニア、イランなどのほか、 「中国という巨大市場にもインターネット進出を果たしたばかり」とヴァランさんは意欲満々だ。(し)
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