去る9月末のこと、パリで一人の韓国人青年が、日本の安保関連法に反対するための集会を呼びかけた。その青年イ・イェダさんは、2012年7月に徴兵を拒否するため韓国からフランスへと亡命し、翌年の6月に難民申請が認可された。韓国の徴兵制には良心的懲役拒否も代替服務制度も無い。拒否すれば1年半投獄される。彼は懲役拒否を理由に難民として認められた最初の例だ。
人を殺す訓練を受けたくはない、その良心に基づき徴兵を拒否したがために、韓国内で彼は「国民の義務」を果たさない「裏切り者」として非難される。それでも彼は、日仏韓の様々なメディアを通じて非戦のメッセージを訴えてきた。
そんなイェダさんが、日本の集団的自衛権について「平和憲法を持つ国としてできることがあるのに、他の国と同じ権利を持つだけの国になる」と言う。韓国軍が参戦したベトナム戦争やイラク戦争の歴史を知る者として、日本が韓国と同じ轍(てつ)を踏むことを危惧しているのだ。
彼には、理想がある。それは世界中の軍が銃を下ろした世界。しかし理想だけでは不十分なことも認める。韓国・北朝鮮間の戦争が終結していない現状で「(韓国軍が)軍備を解けば攻撃されるだろう」と述べる彼は冷静だ。だからこそ理想だけではなく、非戦を訴える自分たちを理解しない人々を説得する必要性を強調する。
いま彼は、9月の集会をきっかけに日本やフランスの友人たちと連携して、戦争や平和について国を超えた共通理解を深め広げていくために「SoLiDA」(アジアにおける連帯、自由、民主主義)というグループを始めたところだ。この運動に関して彼は、安保関連法だけでなく、従軍慰安婦などの歴史認識問題についても「日本、韓国、両国間で誤解があるのは悲しい」、「両国には共通する問題も多い。デモや勉強会を通じて直接対話できる機会を作れれば」と語る。
たとえ非難の嵐が起きても、彼は主張し続ける。それは非戦を望むがゆえに国から見放された難民として、人々の生よりも国が優先される社会の代償を、身をもって知っているからだ。(須)