マダム・キミのシルバーラウンジ:11月1日号

クミコさん(83歳)は満州に生まれ、10歳の時、家族と横浜に引き上げた。1964年、クリス ・マルケル監督の『不思議なクミコ』を演じる。65年、来仏。映画関係のフランス人男性と結婚したが、数年後に離婚。双子の娘(作家と建築家)がいる。彼女は詩人・作家でもあり、芭蕉の句の翻訳もしている。数年前からアルツハイマー症になり、現在パリ北東郊外の介護付老人ホームに入所している。

私、キミよ、覚えてる?
ウ〜ん。お菓子持って来てくれたの。

いつごろここに入ったの?
もう30年前(実際には今年3月末から)。

娘さんたちは会いにくる?
知らない…。

毎日何してるの?退屈しない?
この窓から前を通る車に手を上げたり、通り過ぎていく雲を見てるの。きれいよ。

庭園を散歩しながら、クミコさんは枯れかかっているバラの花に手を差しのべ、サヴァ?(元気 ?)と話しかけ、聖アントワーヌ像を見上げながら嬉しそうに微笑む。

「毎朝、彼の笑顔を見て、私も微笑むの。見て、この人、靴下はいてないの…。」

ほとんど日本語を話す機会がないのにクミコさんはすらすらと日本語で話してくれる。大半が車椅子の老人が集まっているリビングで皆が「彼女はいつもにこやかなの」とほめる。
この施設は、18世紀に修道女らが孤児院を運営した建物で礼拝堂もある。モダンなホテルのような内装で約100の個室が並ぶ。娘たちは母親を入所させるために、区役所の社会福祉課に申請してからアルツハイマー症要介護度を医療関係者が診断しこの施設が見つかるまでに3、4カ月待った。費用は月2200€で、年金受給者は年金額の90%+貯蓄、県が支給する高齢者への各種手当でまかなう。不足分は家族が負担するか、不動産所有者は手当を受けられず、持ち家を売却するほかない。
10月始めにピアフの歌を歌う友人と会いにいき、リビングで数曲歌ってもらうと中には懐かしそうにリフレインを合唱する老人も。最後に私たちを見送りながらクミコさんは「鳥になってここから飛んでいきたいよう!」と繰り返す。


 

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