心の支えだった伴侶を、他人に突然奪われた悲しみは、いかばかりだっただろう。その相棒が小さな犬だったとしても。
ル・パリジャン紙によると、ルーマニア出身でホームレスのユリアンさん(59歳)は、ペキノワーズ種の犬「リンダ」と、パリ中心部レ・アール地区で暮らしていた。
9月中旬レ・アール駅前に、ユリアンさんがリンダと座っていたところ、数人の男女が現れた。突然ユリアンさんを地面に押さえつけ、リンダを強奪。必死に追いすがるユリアンさんを振り切って逃走した。通行人の1人が、この場面を録画し、ビデオ投稿サイト「ユーチューブ」に掲載。ビデオは公開から24時間で、21万回試聴された。ユリアンさんにリンダを返すよう署名した人は、1週間で16万8千人に上った。 リンダを連れ去ったのは、動物愛護団体「コーズ・アニマル・ノール」のメンバー。団体は「ロマ(欧系の流浪の民)が犬をドラッグでぐったりさせていたので保護した」と主張した。ユリアンさんは「犬にドラッグをさせるなんて、どうやるんだ」と困惑。「リンダを取り戻すことだけが私の願い」と話し、地区の弁護士から無償で支援を受け、警察に被害届を提出した。
リンダの犬用パスポートも持っているユリアンさんからの訴えを受け、警察は「集団強盗」容疑で10月1日、同団体の代表を拘束し事情聴取を行った。代表は、リンダを警察に引き渡すことを約束し、翌日釈放されたが、罰金を科される可能性がある。リンダは事務手続きを経て、警察からユリアンさんに返還される。
ユリアンさんはすっかり有名になってしまい、レ・アールの街角から消えた。弁護士は「安全な場所に移った」と話している。(重)
※リンダが奪われた瞬間のビデオ :
www.youtube.com/watch?v=7pKb29VHwb8