『AMY』は、2011年7月23日、27歳で夭折したシンガーソングライター、エイミー・ワインハウスの短い一生を振り返るドキュメンタリーだ。今年のカンヌ映画祭のミッドナイト上映で初披露され話題を呼んだ。フランス公開(7月8日)に先立って本国イギリスでは7月3日に公開され、ドキュメンタリー映画の興行記録を塗り替える好スタートを切っている。
デビュー前の無邪気な彼女の映像は、たぶん近しい友人や家族が撮ったものだろう。ハスキーヴォイスで歌うジャズ、ソウル、リズム&ブルース、彼女の歌唱力は既に天下一品、聴く者の心に深く響く。当然のごとく、20歳の時(03年)にファースト・アルバム「Frank」がリリースされ直ぐさまヒットする。彼女の歌声はビリー・ホリデーやエラ・フィッツジェラルドと比較された。その上、彼女には作詞作曲の才能があり、自分の内面を歌に昇華してゆく。順風満帆のキャリアをスタートさせたかにみえたが……言ってしまえば彼女は”男”で躓(つまず)いたとしか思えない。めろめろに恋して結婚した相手が彼女をドラッグの道へ連れ込んだ。06年にリリースされたセカンド・アルバムにしてファイナル・アルバムとなってしまう「Back to Blank」の中に収められた “Love is losing game” は本当に切ない。この恋愛に溺れていたら人生の敗者になってしまうことに勘づきながらも惚れた男から離れないのだ。また “Rehab” では、薬物依存症を治療するためのリハビリ施設に入退院を繰り返す自分の心境を歌っている。08年にはグラミー賞5部門を制覇、世界的な名声を揺るぎなきものにする一方で、私生活では衰弱してゆく。興味本位のタブロイド・メデイアのカメラのフラッシュが彼女を襲う……。
映画は、既視のメディア映像だけでなくプライベート・フィルムを発掘し、家族、知人、友人へのインタビュー(証言)で構成されている。そしてもちろん歌う彼女と、その歌そのものが映画を紡ぐ。ドキュメンタリー『アイルトン・セナ ~ 音速の彼方へ』でも知られる監督のアシフ・カバディアは、生前のA・ワインハウスを知っていたわけでも特にファンだったわけでもないそうだが「この映画を作りながら彼女を発見した」と語る。その冷静さと客観性でこの映画は、筆者のような新たなA・ワインハウスのファンを獲得することだろう。(吉)