Opinel N°8
刃渡り3.5cmの2番から12cmの12番まである中で最も標準的なオピネルナイフ8番。オピネル発祥地に近いサン・ジャン・ド・モリエンヌ村の紋章 (聖ヨハネの洗礼の手)とサヴォア公国を示す冠の組み合わせ(main couronnée)がマークだ。 9.30€
折りたたみナイフといえば、クトー・スイスやライヨールをまず思い浮かべる日本人が多いかもしれないが、フランス産でライヨールと双璧を成し、より大衆的なのがオピネルナイフだ。「ライヨール」は商標登録されていないため、ライヨール村やティエール町などの産地認可製品のほかに、外国産のコピー商品も多数ある。高級感があり値段も高いのに対して、オピネルのほうは丸っこい木製の柄が親しみやすく、日用品としてフランス人に愛されてきた。19世紀から変わらぬ独特のデザインは世界的にも知られ、1985年にヴィクトリア&アルバート博物館選出の「世界で最も美しい100の製品」に選ばれた。創業から一貫してオピネル家が作り続けてきた登録商標製品だ。
シャンベリーの南東80km、イタリアに近いアルプス山間の小さな村、ジェヴッド(Gévoudaz)で祖父の代から鎌や斧といった農具の鍛冶屋だったオピネル家の長男ジョゼフは1890年、弱冠18歳で現在のオピネルナイフにほぼ近いナイフを創った。機械好きだった彼は柄になる木を削る機械を自分で作り、工場を建てた。1915年には工場をシャンベリー郊外に移して拡張。父ジョゼフに似て機械や工作が好きなマルセルは55年、ナイフの刃と柄の間のはめ輪 (virole)の上に、刃が閉じないようにする安全輪を加え、これを 「Virobloc」として特許を取った。こうして現在のオピネルナイフが完成したわけだ。
1973年にシャンベリー市内に移転した工場を見学した。まずは柄の製造セクションへ。柄はナイフのサイズに応じてカット済みで仕入れた角材が、あの独特なカーブを描いた円柱形の形に削られ、折りたたむ時に刃が入る割れ目をつけられ、綿布で磨かれるまでの工程を、1台の機械がおこなう。木材は8割がジュラ地方のヨーロッパブナだが、他にもオリーブの木、オーク、クルミの木などの高級木材、カラー柄用のカバノキ類も使われる。成型が終わると、ニスを塗って乾かされる。
次は 「はめ輪」と安全輪(Virobloc)の製造工程だ。約10cm幅のステンレス帯が巨大な機械に吸い込まれると、カットされて輪になって出てくる。1分間に150の輪が生産できる。この機械を担当している若いヤニックさんは 「それぞれの工程に合わせて内部の部品をチェックして交換したり、修理する。やりがいのある仕事だ」と胸を張る。
刃のほうは、昔は自社で鍛造、焼入れしていたが、今では炭素鋼(ドイツから輸入)とステンレス鋼 (スウェーデンから輸入)をリヨンの下請け会社でカット・焼き入れしたものを使う。オピネルの工場では、物を切るときの抵抗を少なくするためにわずかに丸みを帯びた形に削り、研いで両刃を付ける。この工程もロボットのような自動機械ででき、1時間に320本の刃を生産する。刃のない形だけのナイフが切れ味の鋭い刃になって次々と出てくる様は魔法のようだ。
最後に柄とはめ輪と刃の3部品を手作業で並べたものを、機械がリベットで固定しロゴを付ける。次に手作業で安全輪がはめられ、最後の仕上げは丸砥石の間にほんの一瞬刃を通す仕上げの研ぎ作業。この勘のいる作業を35年続けているミッシェルさんは夫も息子もオピネル社員だ。包装を終えた製品の行き先は55%が国内で、残りは伊、独、北欧、米、南アなど。日本へは1972年から輸出している。
創業者親子が発明した機械を改良・進化させて合理的な生産を行うオピネル社は、調理用、食事用、園芸用、アウトドア用、記念・贈答用、また寄木や牛角、革製の高級柄など商品を多様化、年間生産400万本、年商1880万ユーロとここ5年で倍増させ、不況知らずの快進撃を続けている。(し)
www.opinel.com
OPINELの折りたたみナイフ。
オピネル創始者、 ジョゼフ・オピネル。
はめ輪・安全輪の機械を担当するヤニックさん。 大学の機械科を卒業後、他社を経てオピネル入社3ヵ月。
Opinel N°8
オピネル博物館の館長、ジャック・オピネルさん。創業者の甥の子に当たる