冷夏とワニ。

 日本ではお盆にあたる8月15日、曇り空の下、閑散としたカフェのテラスで『Le Parisien』を広げると、「1万4千頭のワニがロワシー空港の税関で差し押さえられた」という文字が目に飛び込んできた。ご存知のとおり、ワニはワシントン条約で絶滅のおそれのある動物として国際取引が規制されている。麻薬や武器、偽物のブランド品などを器用巧みに密輸して荒稼ぎする闇組織は多くあるようだが、さすがにワニ1万4千頭を堂々と運んでくるとは大胆だ。しかし、どんな形でフランスまでやってきたのだろう?思わず生きたワニ君たちが大群をなして税関に到着するという、SF映画さながらの光景を想像して記事を読み進めると、何のことはない、香港から輸入されたワニの形をした子供用のおもちゃの浮き袋が欧州で定められている安全規格に適しておらず、不良品と見なされたというだけの話。しかし、穴があいていたとか、ビニールが薄いとか、危険な原料を使用していたということではないらしい。問題とされたのは、安全基準について包装の箱と本体の表示が大きくかけ離れている点だ。たとえば本体には「80kgまで大丈夫」、「0〜6歳児まで使用可」と絵で記されているのに対して、箱には「最大荷重45kg」、「3歳以上の子供の使用不可」と書かれているといった具合だ。
 税関局長はこうした一貫性に欠いた安全表示は信用できず危険であるとして、ワニ君たちの廃棄を決定した。製品そのものの欠陥ではなく表示の曖昧さを指摘しているだけなのだが、それでもこうした厳しい措置がとられる裏には、同様のケースで問題が起きていることも考えられる。
 それにしても、南仏や大西洋の海岸を目指して香港から飛行機に乗ってはるばるやってきたものの、一度も使われることもないまま処分されるワニ君たちには、かわいそうな気もする。だが今年の夏をかえりみれば、税関の倉庫から彼らのこんな声が聞こえてきそうだ。
 「今年のはじめから予想されていたエルニーニョ現象の影響からか、7月の降水量が50年ぶりに最高記録を更新し、フランスは冷夏だ。海辺のカフェやレストランには閑古鳥が鳴いていたらしい。このまま問屋に卸されて、仲間と離ればなれになって店の売れ残り商品になったり、たとえ買ってもらっても、すぐに大きな邪魔者扱いされるくらいなら、俺たちもいっそのこと空港でみんな一緒に灰と消えてしまいたい。南無阿弥陀仏、ありがた(アリゲータ)や」と。(康)