向かいに住んでいたジャン・クロードさんを、よく日曜のお昼に招いたのだが、すると、「では、ボクはデザートを作って持って行くよ」と言って、時にはサクランボのタルト、時にはスモモのタルト、時にはリンゴのタルトと、季節の果物が入ったタルトを持って来てくれた。それも、カスタードクリームや砂糖煮などが敷いていない、果物だけのシンプルで、季節感あふれるタルトだった。
サクランボのは、サブレ生地で、サクランボの蒸留酒キルシュが香りづけだった。スモモは、彼の庭に生えている紫色で身が黄色いクエッチquetsche。特に彼が得意のリンゴのタルトは、「小さめのゴールデンデリシャスでなければ」とうるさい。薄く切られて、放射状に並べられたリンゴの美しさ。溶け出した果汁が凝縮されて、リンゴの下で光っている。ジャン・クロードさんから作り方を教わって、上のレシピ欄でも紹介したことがある。「母親から教わったんだ。母は亡くなってしまったけれど、型は同じものだよ」と、使い込まれて鈍く光る型を見せてもらったこともある。「タルトはいいなあ! 焼いている時に台所に立ちこめるおいしい果物の匂い…」
ジャン・クロードさんは、湯沸かし器の中にある銅の管を蒸留器に改造して、スモモの蒸留酒も作っていた。「蒸留酒を作るのは犯罪だから、匂いが見抜かれないように午前2時まで待つんだ」と言いながら、タルトといっしょに、その香り高い蒸留酒をグラスについでくれた。(真)