ジュリエット・ドゥルーエの物語
ヴィクトル・ユゴーは20歳でアデル・フーシェと結婚し、4人の子供にも恵まれて幸せな家庭生活を送っていた。そんな中、 アデルはユゴーの親友でもある詩人のサント=ブーヴに恋をしてしまった。妻の不貞にすっかり傷心のユゴーの前に現れたのが、当時27歳だった女優のジュリエット・ドゥルーエ。ユゴーの書いた戯曲『ルクレチア・ボルジア』が出会いのきっかけだった。たちまち恋に落ちたふたりは、それから50年もの歳月を共に過ごすことになる。
経済観念がしっかりしていたユゴーは、ぜいたく好きだったジュリエットの借金を清算し、代わりに細かい家計簿をつけさせてお金を管理させたそう。それまで女優として華やかな生活を送っていたジュリエットは、新しく始まったつつましい生活のために一気に老けたともいわれている。
ユゴーの家族に気を使ったり、一生恋多き男だったユゴーに焼きもちを焼いたりと苦労も多かったジュリエットにとって、夏に二人で行く恒例の旅は生きがいだった。自らを「旅の病気」にかかっているとし、ユゴーへの手紙の中で「この病気には、パスポートにまさる処方箋、宿にまさる薬局、馬車の座席にまさる緩和薬や湿布はないと思われます」と書いている。恋人たちは、ブルターニュやノルマンディー、ベルギーや北フランスを旅した。ユゴーの『ライン河幻想紀行』は、ふたりで訪れたライン河沿いの旅が元になっている。
ユゴーが亡命を余儀なくされた時に、パスポートを調達しブリュッセルへの旅を手配したのも彼女。その後、ジャージー島やガーンジー島に同行し、ユゴーの家族が一人、また一人と島を去ってからも愛する恋人の元に残った。ユゴーの手紙や原稿の清書をしたり、一緒にアンティークの家具を探しまわったりする日々は、ジュリエットにとって最も充実した年月だったのかもしれない。
ジュリエットがユゴーに宛てたラブレターは約2万通。その文面からは細やかな愛情や宗教的な情熱がほとばしる。ユゴーの方は、この生涯の恋人に、何編もの美しい詩を捧げた。
ユゴーはジュリエットに宛てた手紙の中で「私の名前が後世に残るとしたら、君の名前も残るだろう」と書いたが、ジュリエットは、ユゴーの伝記には必ず登場する重要人物となった。パリのユゴー記念館では2006年から2007年にかけてジュリエットにオマージュを捧げる展覧会が開催されたが、好評で会期が延長されるほどだった。
ヴィクトル・ユゴー年譜
1802年2月26日 軍人の息子としてブザンソンで生まれる。
1819年(17歳)「文学保守」誌を創刊。
1822年(20歳)『オードと雑詠集』により国王から年金受領。
1822年(20歳)アデル・フーシェと結婚。
1827年(25歳)『クロムウェルと序文』刊行。
1829年(27歳)『死刑囚最後の日』刊行。
1831年(29歳)『ノートル・ダム・ド・パリ』刊行。
1833年(31歳)ジュリエット・ドゥルーエとの出会い。
1843年(41歳)娘レオポルディーヌが溺死。
1851年(49歳)ナポレオン3世のクーデター。亡命生活に入る。
1856年(54歳)『静観詩集』刊行。
1862年(60歳)『レ・ミゼラブル』刊行。
1870年(68歳)パリに戻る。
1885年 5月22日(83歳)パリで永眠。
〈ユゴー巡礼〉インフォメーション
●Les Maisons de Victor Hugo
-パリ、ヴォージュ広場:火〜日10h-18h(月祝休)。
『L’âme a-t-elle un visage?』展は(8月31日まで)。6 place des Vosges 4e
-ガーンジー島「オートヴィル・ハウス」:
4/1〜9/30。月〜土10h-16h(日休)。
「オートヴィル・ハウス」見学は要予約。見学所要時間は、仏英語のガイド付きで約1時間。
www.maisonsvictorhugo.paris.fr
*ガーンジー島へはサン・マロの港からフェリー(www.condorferries.fr)で約2時間。 往復約60€から。パスポートや滞在許可証をお忘れなく!
●La Fregate Hotel Guernsey
ガーンジー島の港から歩いて約15分のところにある快適なホテル。フランス人シェフのレストランでは新鮮な魚介類、そして島で栽培されているジャガイモ。すべての部屋がオーシャンビューで、自然の豊かさを感じることができる。朝食込みでS:99.5ポンド〜、D:185ポンド〜。
www.lafregatehotel.com
●Panthéon
ユゴーが眠るのは、パリの5区にあるパンテオン。彼が亡くなったことが伝わった日に国会が休会になり、通夜の日にはパンテオンに向かう葬列に200万人の市民が加わった!
●『レ・ミゼラブル』に出てくるパリの各地
リュクサンブール公園、ピクピュス通り、ムフタール通り、フィーユ・デュ・カルヴェール通り、下水道、ペール・ラシェーズ…。
構成・文・写真:アトランさやか
ガーンジー島の「オートヴィル・ハウス」
ナダール撮影の ヴィクトル・ユゴー。
La Fregate Hotel Guernsey