国連食糧農業機関(FAO)の2009年の統計によると、世界で年間に最も多くの魚介類を消費している国は、インド洋の島国モルジブらしい。国民1人あたり年間で139キロも消費しているという。日本は56.6キロで第6位。フランスは33.7キロで12位だった。一見、日本は魚食大国のようにも思えるが、国民の「魚離れ」が問題になっているのが現状だ。消費を促進しようと「魚を食べると頭が良くなる」という歌がスーパーの鮮魚売り場で流されているのはよく知られた話だ。
しかし、5月31日にフランス農水省の関連組織〈FranceAgriMer〉が公表した統計によると、日本人よりも魚を食べないフランス人の「魚離れ」はさらに深刻なようだ。2013年3月から14年3月にかけて、魚介類の購入量は5%も減少したが、魚介類の購入金額は3%増加したという。量は減る一方で価格が上がった。つまり魚の値上がりが進んだというのだ。その原因となったのが、鮮魚購買の2割を占めていたサケの輸入量が25%も激減したことにある。サケはどこでも手に入り、ムニエルにしたりして簡単に調理できる身近な魚だったが、昨年は世界の市場で値段が3割も急騰し、2014年の1月から4月にかけては5割以上も値上がりした。この背景には「国際的な需要の増加」があるという。いわずもがな、高度経済成長とともに国民の食生活が変わってきている中国の影響を指している。
FAOの資料によると、中国の国民1人あたりの魚介類消費量は、ここ30年の間に5倍も増えている。そして、中国で何より好まれるのが脂の多い魚だ。極端な言い方をすれば、世界の人口の5分の1が突如としてマグロやサケを求めるようになった。当然、供給が追いつかず、結果として値段は高騰し、フランスでの消費者離れが進んだという訳だ。同じ現象はエビや貝類でもみられ、前年比でムール貝は5% 、ホタテは4%、エビ類にいたっては16%も消費が落ち込んだ。
高級魚になってしまったサケに代わって食卓に上るようになったのが白身魚だという。とくに冷凍タラの輸入量は前年から50%、購買量は13%も増えている。
こうした傾向が続けば、フランスの魚食文化自体が変わってしまうかもしれない。ふと「もうフランスではマグロやサケを食べられなくなるのではないか」という不安にかられて、近所の食べ放題のスシ屋に走った。これまでは「またか…」と舌打ちして食べていたサケの握りが、異様に輝いているように見えた。(康)