—母国語で読むということ〈北欧編〉—
パンテオンの向かいにあるサントジュヌヴィエーヴ図書館は、広くて天井の高い荘厳な閲覧室が映画のロケにも使われて有名だ。ところが、この図書館の1部門として、ノルウェーやスウェーデン、アイスランドやデンマーク、フィンランドといった北欧の書籍を集めた「北欧(ノルディック)図書館」があることを知っている人はあまりいないかもしれない。
「利用者の多くが学生や研究者、翻訳家、もちろんパリ在住の北欧出身者たちもいる」と語るのは、主任のフロランス・シャピュイさん。自身も3年間ノルウェーに滞在した経験を持つ。
この図書館の歴史は古く、ランス大司教のシャルル=モーリス・ル=テリエが1710年に500点の北欧関連の書籍を寄贈したことに始まり、3世紀を経た現在、19万冊を数える。1980年代には、図書室の維持に困っていたスウェーデン学院の蔵書を丸ごと引き受けたし、出版社などから受ける献本や各国から送られてくるもの、そして新規の購入などで蔵書は増え続けている。こうした書籍の収集や整理の戦力になっているのが、2名ほどいるスウェーデン人のスタッフ、そして1896年から行っている受け入れ制度で、北欧諸国の国立・王立図書館から派遣されてくる司書たちだ。しかし、書籍を収集し整理するだけがフロランスさんたちの仕事ではない。ほぼ月1回のペースで北欧各国の作家などによる講演会を開催して、一般の人たちにも北欧文化に関心を持ってもらおうと努めている。
「ø」や「å」といった見慣れぬ文字の背表紙が所狭しと並ぶ彼女の事務室。フランス語で手軽に読めるようなおすすめの一冊はないかときくと、「アンデルセンは有名すぎるから、スウェーデンの女性作家セルマ・ラーゲルレーヴの『ニルスのふしぎな旅』かな。日本でもアニメになったらしいわね」という。児童文学というと大人の文学に従属した二次的なものと見られがちだが、北欧諸国ではれっきとした文学として認められているようだ。数年前スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによる推理小説『ミレニアム』3部作が世界的なベストセラーになったが、実は推理小説も近年になって盛んになったわけではなく、もともと深く根ざしたものだったという。
北欧文学は、自然、特に海が頻繁に出てくる。この図書館にやってくる研究者にも、子供の頃バイキングの冒険物語に憧れたという人が多いそうだ。
「でも何よりの特徴は、世界でもかなり早い時期に男女平等の問題に目を向けた先見性だ」と力説するフロランスさん。彼女の写真を撮らせてくださいとお願いすると、「一番のお気に入り」というイプセンの写真集を手に凛(りん)として席を立った。(康)
Bibliothèque Nordique
Adresse : 6 rue Valette, 75005 parisTEL : 01.4441.9750
月〜土14h-18h。