クルーズ県リュサLussat市付近で金や銀をはじめとした、レアメタルの鉱脈があることが有望となり、昨年の11月、カナダ資本のコミノール社に、生産再建省から採掘許可が下りた。約300万ユーロの資金が投入され、200人の雇用が生み出されるという。
アメリカのカリフォルニア州は1840年代の金鉱脈発見を起爆剤にして、ゴールドラッシュという成句となるほど人口が流入して発展をとげた。クルーズ県にも人が集まれば自治体にとっても地域活性化のよい機会だ。だがカナール・アンシェネ紙や地方紙ラ・モンターニュなどの紙面によると、地元の反応はかなり冷ややかだ。というのも、掘削の対象となっている45平方キロメートルの区域は自然保護地区を含み、湖にも面しているからだ。それゆえ「黄金が出た!」という噂を聞いて駆けつけてくるのは、一攫(かく)千金を狙う山師や屈強な男たちではなく、鉱山開発によって公害が広がることを危惧した環境運動家たちだ。
中でもモニエール夫妻は、仏領ギアナで、同様に自然豊かな森でカナダの鉱山会社が金の露天掘り計画を進めた2004年から08年にかけて反対運動をおこし、最終的に阻止した実績をもつ人物。
知ってのとおり、金鉱といっても純金がそのまま採れるわけではなく、金を含んだ原石を精錬する必要がある。その過程で水銀などの有害物質が出てくる。夫のパトリックさんによると、仏領ギアナではその処理が大きな問題になっているという。しかも、こうした有害物質が多く出るわりに採れる金が少ない。鹿児島の菱刈鉱山の金の1年間の産出量は7.5トンといわれているが、今回対象となった試掘地域から15キロメートルほど離れたシャトレ金山では、20世紀前半の50年間でわずか11トン生産したのに対して、ヒ素に汚染された有害鉱物が80万トンも出た負の歴史もある。
「金が出て喜ぶのは時代遅れだ」と言うのはモニエール夫妻だが、携帯電話の部品に金が使われて「都市鉱山」などと呼ばれる時代、やはり金の需要は高まっているのが現状だ。産業に使う資源の多くを輸入にたよっているフランスにも、いろいろな鉱山資源が眠っている。生産量はわずかながらも南西部のランド地方には原油の油田さえある。
こうした資源の自給率を上げて少しでも輸入依存率を軽減したい論理も当然だが、環境のことを考えると、金鉱が見つかって「月が 出た出た」と炭坑節を歌って、ぬか喜びにひたれるほど単純ではないようだ。(康)