スウェーデン人リューベン・オストルンドに2度目の最高賞。
昨年に比べコロナ禍は影を薄め、かなり通常開催の雰囲気に戻った第75回カンヌ映画祭が、5月28日晩に閉幕。パルムドール(最高賞)はスウェーデンの鬼才、リューベン・オストルンドの風刺コメディ『Triangle of Sadness(Sans Filtre)』の頭上に輝きました。下馬評も非常に高い作品で、受賞は余裕の射程内。とはいえ、監督は2017年に『スクエア 思いやりの聖域』で同賞を獲得済みですから、2度目の最高賞は多くの人にとって意外だったかもしれません。しかし前作からさらにパワーアップした文句なしの面白さなので納得の受賞です。
インフルエンサーでモデルの若いカップル、怪しい大富豪たち、船のスタッフたちを乗せた豪華客船が遭難、命からがら島に流れ着きヒエラルキーが逆転するドラマ。短編のような前日談的シーンが繋がれたりと、楽しい仕掛けに満ちた快作ですが、とかくシンプルな設定の冒頭シーンから爆笑必至!深刻かつ重要なテーマを面白く語ってしまうブニュエル的世界が見事に爆発します。
次点であるグランプリは2作。ルーカス・ドンの『Close』と、クレール・ドニの『Stars at Noon』でした。とりわけ『Close』は、筆者もそうでしたが、多くの人にとって大本命作品。授賞式では思わず立ち上がって讃える人が続出するなど、会場の反応は熱狂的なものがありました。本作は二人の仲良し少年の関係を丁寧に見つめた心震える純度の高い逸品で、まさに今年のカンヌの “宝石”です。記者会見でドンは「とてもパーソナルな映画。私が失った友情に捧げています」と語りました。
1991年生まれでコンペ部門最年少監督だったこのルーカス・ドンを筆頭に、今年の特徴のひとつはベルギー勢の授賞ラッシュ。審査員賞を受賞したおしどりカップルのフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ(授賞式の壇上で突然熱いキスをしていました)の『Le Otto Montagne (The Eight Mountains)』、カンヌの常連かつ大御所で、第75回記念賞を受賞したダルデンヌ兄弟と、3組が揃って受賞を果たしたのです。授賞式後の記者会見でもベルギー映画の躍進が話題となりました。
日本人監督の活躍も忘れてはなりません。カンヌの常連である是枝裕和監督は初めて手がけた韓国映画『ベイビー・ブローカー』でエキュメニカル審査員賞を授与されました。エキュメニカル審査員賞とは1974年にキリスト教徒の映画製作者、映画批評家らにより創設された歴史ある賞で、「人間の内面を豊かに描いた作品」に授与されます。また同作主演のソン・ガンホが、韓国初の主演男優賞に。受賞後の会見で是枝監督は「役者が褒められるのは本当に嬉しい。このプロジェクトにとって最高のゴール」と語りました。2004年に『誰も知らない』ですでに柳楽優弥に主演男優賞をもたらしていることを思い出せば、是枝監督は間違いなく俳優を輝かせる演出者であります。『ベイビー・ブローカー』はフランスでは『Les Bonnes Étoiles 』の題名で12月7日に劇場公開予定です。
「ある視点」部門に出品した『Plan75』で、新人賞カメラドールの特別表彰(次点)を授与されたのが早川千絵監督でした。本作は75歳以上の人が自らの死を選べる制度が導入された架空の社会をリアルに描いたドラマ。カメラドールの審査員長であるロッシ・デ・パルマに、「この時代に必要な映画」と激賞されての受賞でした。授賞式でも記者会見でも、頼れるゴッドマザーのようなデ・パルマが隣について監督をサポートをしていたのが印象的です。このように映画祭では映画人同士の豊かな繋がりが垣間見られるのも嬉しいところ。日本人のカメラドール関連の受賞は珍しく、1997年の河瀬直美監督(『 萌の朱雀 』)以来史上2度目の快挙!今後を期待せずにはいられぬ逸材の誕生となりました。『Plan75』はフランスでは9月28日に劇場公開予定です。(瑞)
受賞結果
●最高賞パルムドール『Triangle of Sadness(Sans Filtre)』(リューベン・オストルンド)
●グランプリex æquo(同位二点)
『Close』(ルーカス・ドン)、『Stars at Noon』(クレール・ドゥニ)
●審査員賞ex æquo(同位二点)
『EO』(イエジー・スコリモフスキー)、『Le Otto Montagne (The Eight Mountains)』(フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ)
●監督賞 パク・チャヌク(『Decision to Leave/別れる決心』)
●主演男優賞 ソン・ガンホ(『ベイビー・ブローカー』)
●主演女優賞 ザーラ・アミール・エブラヒミ(『Holy Spider』)
●脚本賞 タリク・サレ(『Boy from Heaven』)
●75周年記念特別賞 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督(『Tori et Lokita』)
●カメラ・ドール ライリー・キーオ、ジーナ・ギャメル(『ウォー・ホース』)
●カメラ・ドール特別表彰 早川千絵(『Plan 75』)
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