ステレオタイプからの解放。『Free Fall』

 警察(機動隊)の合宿で訓練に励むマルクに、同僚のケイが何かと絡んでくる。不愉快だとばかり突っぱねていたが次第にケイのことが気になり始めるマルク。家に帰れば大きなおなかを抱えた妻のベティナとの暖かな時間が流れる。
 やがてケイが同じ部隊に配属され、再びマルクの前に現れる。何故か心穏やかでないマルク。戸惑い…反発…、つまりマルクはケイに恋してしまったのだ。そしてついにケイの誘惑に屈する。この辺のマルクの心の揺れが繊細に描かれる。一方のケイのちょい悪っぽい魅力も説得力がある。二人の熱愛の火ぶたが切られる。妻に悟られるのも時間の問題だ。妻はもちろん夫が同性愛に走ったなどとはつゆ思わず「新しい女ができたの?」と夫を責める。そして真実を知った時、彼女は家を出てゆく。ポリスというマッチョな世界での同性愛者に対する嫌悪、イジメ。なんと世の中は保守的で寛容性に欠くことか! 果たしてマルクは父になる。ケイの心境は複雑だ。そんな二人の行く先は…?
 ドイツ映画『Free Fall』の監督、ステファン・ラカントは、「この映画は、ホモフォビアが世の中にはびこっているということを知らしめる側面もあるが、それ以上に同性・異性の垣根を取っ払った純粋な恋愛映画であり、さらにはステレオタイプからの解放を謳(うた)っている」と言う。
 昨年フランスで同性婚が認められたが、驚いたのはそれに反対する勢力の台頭だ。同性愛に限らずステロタイプの中で生きることへの執着、保守的な考えを持つ人の多さにあ然となる。ステレオタイプの中で生きて来たマルクが、その殻を破った時、困難と引き替えにもっと大きくて深い人生を手にしたのではないか? 上質の作品、おすすめです。(吉)