フランスの今年の主要なイベントの一つ、3月の市町村議会議員選挙。どこの国でも選挙となれば、候補者たちは自分の知名度向上に苦心する。3万6千もの市町村があるこの国のこと、面白いパフォーマンスを見せてくれる候補者がいるのではないかと気になって調べてみた。
もっともオーソドックスで毒がないのは、自分の名前をネタにすることだ。セーヌ・サンドニ県のセヴラン市で旗揚げした左翼戦線のクレマンティーヌ・オータン候補はミカンを意味する自分の名前にかけて「セヴラン市民にビタミン注入!」なるスローガンを掲げている。中央高地にあるオーリヤック市のジャン=アントワーヌ・モワン候補は「Moins(少なめ)」という消極的な苗字を逆手にとって「Faire plus avec Moins(モワンと一緒にもっともっと!)」と勝負をかけている。
こういった言い方はあやしく聞こえたりもする。そこで直接、体で有権者に訴える肉体派もいる。ノルマンディー地方のコードベック・レ・エルブッフ市のアレクサンドル・ピネル候補(社会党)はその代表例だ。マスコミに配信された紹介文には律儀にも「身長177センチ、体重80キロ」とある。というのも、彼の売りは、市の清掃員をしながらボディービルの国際大会をいくつも制覇してきた隆々たる筋肉にあるからだ。「国会に卍固め、消費税に延髄切り」と豪語したアントニオ猪木ではないが、学歴エリートが幅を利かせるこの国の政治に風穴をあけてほしい。
しかし、全体的に奇抜さにかける。日本では俗に「泡沫候補」などとよばれる無所属無名の候補たちが珍妙なキャンペーンを展開し、テレビの政見放送が格好の舞台となっている。「自分はキリストの生まれ変わりだ」とか「この国をぶっ壊せ!」と絶叫したり、インドのガンジーに扮して登場する候補者も出てくる。当事者たちは本気なのかもしれないが、彼らの体当たりの演技が「くだらないお笑い番組より断然おもしろい」と、動画サイトでも「傑作集」などが配信されているほどだ。
フランスにもこうした候補がいないかと探していたら出てきたのが、ル・ピュイ市の無所属のエドワール候補。地元メディアに「町のコリューシュ」などと書き立てられる彼のビラは「Blabla(べちゃくちゃ)」という無意味なオノマトペだけで覆われている。選挙公約を守らない現職の政治家たちへ痛烈な皮肉といえよう。
笑われることをものともしない芯の強さと、笑われることを楽しみさえする。こうしたサービス精神、肝っ玉を持った候補者がどれだけいるのか、3月末まで目が離せない。(康)