豊かな時間のぬくもり。

 中編『女っ気なし』と短編『遭難者』の2本がカップリング公開され、すっかりファンになってしまった監督のギヨーム・ブラックと主演のヴァンサン・マケーニュのコンビが放つ初長編『Tonnerre』。 
 雷鳴という意味だけど、これは舞台となる田舎町の地名でもある。ちょっと名の知れたミージシャン、マキシム(マケーニュ)は気分転換のためにパリを離れて田舎町に住む父(ベルナール・メネーズ)の所に身を寄せる。ローカル新聞の女性記者、メロディー(ソレーヌ・リゴ)が彼を取材に来る。何となく仲良くなって恋仲になった二人、ちょっと変人なマキシムの父もガールフレンドを連れてきて4人でテーブルを囲んだりと楽しいラブラブな時間が流れる。ところが突然メロディーが姿を消す。小旅行に出たきり音信不通になってしまったのだ。マキシムは心穏やかでないどころか段々と偏執狂的になってゆく。彼の推測は当たっていて、メロディーは元彼のプロサッカー選手とよりを戻していた。平静心を失ったマキシムは大胆な行動に出る…。
 前2作でマケーニュが演じたシルヴァンは、見かけも行動もダサイけど優しい心の持ち主で、最終的に愛着を感じてしまうタイプの男だった。今回のマキシムは、そんな彼が本気で恋に落ちた「恋の病」編と言っていいかもしれない。監督は、前2作とは異質の映画を目指したと言うが、前2作に魅せられたファンはどうしても以前のイメージを引きずってしまう。それに同監督ならではのロケ地へのこだわり、現地の人たちの実在を映画の中にひっぱりこんで流れる、豊かな時間の温もりといった特徴は変わらない。ギヨーム・ブラックという新しい映画作家をずっと応援したい。(吉)

『Tonnerre』