アブデラティフ・ケシシュは、チュニス出身のチュニジア系フランス人。5歳からニース郊外で育つ。思春期に地元のシネマテークに通い映画愛を育んだ。バカロレア取得に失敗後、測量技師を目指すが、映画が忘れられず脚本を書き始める。映画の世界に身を置こうと、一時はマグレブ系移民2世俳優としても活躍した。2001年に不法滞在の青年を主人公とした『La Faute à Voltaire』で監督デ
ビュー。続いて、高校生がマリヴォー劇に挑む『身をかわして』(03)と、南仏の移民家族を描いた『クスクス粒の秘密』(07)が賞賛され、セザール賞を独占。プロデューサーのクロード・ベリと信頼関係を築くが、ベリは09年に死去。新たに大物プロデューサー、マラン・カルミッツと組み『Vénus noir』(09)を発表。だがカルミッツと制作の自由を求めるケシシュとは不協和音が決定的に。作品の評価もふるわなかった。
だが今年は心機一転、名物プロデューサー、ヴァンサン・マラヴァルと組み『アデルの人生』を完成。先のカンヌ映画祭で、見事、最高賞を獲得した。ただし本作の技術スタッフたちは、労働条件の過酷さを激しく非難。労働協約の制定で揺れる映画界に格好の話題を提供した。スタッフの権利とは? 傑作が生まれる要素とは?10月公開の力作『アデルの人生』を鑑賞し、判断してほしい。(瑞)