年に3本しか映画を見ない人でも、少なくともその中の1本として鑑賞リストにねじ込んでほしい。オーストリアの鬼才ミヒャエル・ハネケによるフランス映画で、彼には二度目となるカンヌの最高賞パルムドール受賞作品だ。
「認知症を患う妻と介護をする夫」という高齢者カップルの日常が、ほぼ密室劇で描かれる。テーマは「愛する人の苦しみを前に、いかに立ち振るまえるのか」。映画好きならジャン=ルイ・トランティニャン&エマニュエル・リヴァという、往年の名優の共演が感動的だろう。いつもは冷静で無慈悲な観察者たるハネケが、正面きって愛を語り尽くした本作は、巨匠の新境地にして同時に円熟さを感じさせる。(瑞)