フランスではセクハラ裁判は年間平均80件とわずか。職場などで日常的に起きているハラスメントは性的、モラルにしてもほとんど数字には出ない。多くの場合、上役などのセクハラの対象になっても被害者は同僚や夫にも明かせずうつ病になり、病欠から解雇となるのが一般的だ。
セクハラ法に火がついたのは、2011年、ローヌ県出元国会議員ジェラール・デュクレが、ヴィルフランシュ市役所の助役時代に3人の女性職員にセクハラ行為をした罪で、執行猶予付懲役3年と罰金5千ユーロの判決が下ったことに対して破棄院に上告したことに発する。
デュクレは「執拗(しつよう)に言い寄った」ことが「セクハラ」とみなされたとし、意味があいまいすぎる現行法の合憲性を憲法評議会に審査請求した。2002年改正のセクハラ法は「性的な見返りを得るために他人に行うハラスメントは、懲役1年、1万5千ユーロの罰金刑」と規定している。
5月4日、憲法評議会は明確さに欠けるとしてこの条項を無効にした。そのために数年前からセクハラ容疑者と裁判で争っている被害者たちの闘いも水の泡となり、取り調べ中の容疑も無効となった。被害者やフェミニスト団体は、新条項が制定されるまでの法的空白期にも各種のハラスメントを受けている女性被害者は訴えることもできず、同評議会の即断に抗議の声を上げた。
オランド新政権のトビラ法務相とヴァロー=ベルカセム女権相は、着任早々にこの問題に取りかかり、27年来、対ハラスメントの闘いを続けているNGO〈職場の女性への対暴力欧州協会AVFT〉の意見も参考にし改正案を練る。6月13 日に公表された法案は「性的意味をもつ言動または他の動作を繰り返し、相手の尊厳を傷つけ、下劣、または屈辱的で怖じけさせるような関係を相手に課すこと」とセクハラを定義している。相手にポルノ写真や雑誌を見せつけたり、口頭でみだらな言葉を吐くこと、また一時的にでも脅しをともなうセクハラ(新採用や家主との賃貸契約時など)に対しても懲役1年と1万5千ユーロの罰金刑。命令や強制、いかなるプレッシャーででも「実際に性関係をもつことが目的」でなされた場合は懲役2年+罰金3万ユーロ。相手が15歳未満か心身障害者、または権限を乱用してのセクハラには禁固刑3年、罰金4万5千ユーロ。しかし改正法案には遡及(そきゅう)性がないため、新法案の制定前に告訴されたセクハラ容疑者は起訴できない。フェミニスト団体〈Osez le féminisme〉は、上記の処罰は「窃盗罪よりも軽い」と批判的だ。
米国での対セクハラ法は、1964年法「宗教・人種・肌の色・性・国籍」に関する反雇用差別法の中に含まれる。2011年に雇用平等委員会に届け出られたセクハラ件数は1万1千件、そのうちの半数は却下された。被害者への損害賠償金支払い命令が下されたのは25%で、損害賠償額は年間5千万㌦にのぼるという。ハラスメントは企業内犯罪とみなされ、100人未満の企業主には上限5万㌦(20年前の額)の損害賠償金、それ以上の大企業には上限30万㌦の損害賠償金が科せられる。
法案は7月11日に上院に提出、7月24日から国民議会審議に入るが、男女の上下関係が続く限りセクハラとの闘いはまだまだ続きそうだ。(君)