家族との再会を楽しみに長旅から帰宅したら、あなたと同じ顔、姿格好をした人間が「あなた」として生活をしていて、あなたの居場所はどこにもない。こんな状況があなたの身に起こったらどうする? 戦勝を妻と祝おうと嬉々として家に戻ったアンフィトリオンにも同じ災いがふりかかる。妻アルクメネに恋をした天の支配者ゼウスがアンフィトリオンの座を奪ってしまったのだ。アンフィトリオンの従僕ソジーの座もゼウスの伝令役でずる賢い神メルクリウスに奪われ、閉ざされた家の扉の前で二人は途方にくれる…。
教会や信者からひんしゅくを買った『タルチュフ』のせいで7週間自らの劇場を閉鎖せざるを得なくなったモリエールが、ギリシャ・ローマ神話からインスピレーションを受けて書いたのがこの戯曲。苦悩するアンフィトリオンに自らの姿を投影しているといわれている。初演は1668年1月13日で、モリエール自身がこの戯曲で演じたのが狂言回し役であるソジーだったという。このソジー役はとんでもない二枚舌で、ゼウスとアンフィトリオンの間を行ったり来たり、主人の置かれた境遇よりも自分の妻がメルクリウスを前に貞操を守ったかどうかが一番の関心事という自分勝手な人間なのだけれど、なぜか人をひきつける魅力を持っている。ジャック・ヴァンセイの演出の下でソジー役を演ずるクリスチャン・エックは、百面相のように表情豊か、緩急を交えながらモリエールの韻文を見事に披露し観客を魅了する。劇中で流れた音楽だから、というだけではなく「ロックンロール」という言葉の似合う、若々しい『アンフィトリオン』。はじめは「えっ!?」と思ったけれど、うんと楽しめた。
6/24迄。火19h、水-土20h、日16h。 9€-29€。(海)
Comédie française-Théâtre du Vieux Colombier :
21 rue du Vieux-Colombier 6e
21 rue du Vieux-Colombier 6e
01.4458.9858 www.comedie-francaise.fr