時には爆発したくなることもある。「彼のあまりの頑固さ、生真面目さ、使命感に燃えて突き進む武士的な性格に。そんな時代遅れの夫を愛した私も、時代遅れの女なの」とほほええむエリザベットさん。
二人が出会った26年前は、日仏カップルで夫が日本人のケースは稀だった。愛媛県の大自然に育ち、東京のフランス料理店で料理長を経験した寿幸さん。遠藤周作の大ファンで、いつか作家になる夢をもち、フランスに暮らしていた。一方、言語学者で日本文化をこよなく愛する彼女は、ひょんなことから彼に巡り会う。
その後、彼女は研究のため日本に渡り、彼も一時帰国。「君の道を進みなさい」と言い続ける寿幸さんのモットーは「人生一人」。二人で歩むなど考えたこともなかった。エリザベットさんは「人生は選択するもの。彼と共有したい」と心から願った。煮え切らない彼を、なかば彼女が押し切る形で二人の物語はスタート。「日本にいなくても日本の研究は続けられるわ」と、揃ってパリへ戻る。
今年で結婚24年。1999年に15区セーヌ川近くに日本料理店「会席」をオープン。斬新な食材の組み合わせ、鮮やかな色彩、絵画的な構成で料理界をあっといわせた。芸術家肌で風変わりな寿幸さんを思いきり盛りたて、広報役を引き受ける彼女。出版社を何社も巡り、8冊もの夫の料理本を出版した。その多くはエリザベットさんの翻訳によるもの。「私は自分のことを日本人になったと感じるの。フランス女性なら受け入れないことを受け入れた。仕事だけに専念する夫を支え続けてきたわ」。その間、3人の息子を育て上げる。今やエリザベットさんは日本料理の専門家だ。日本料理普及サイトを運営し、日本料理がユネスコの遺産に登録される日を願っている。料理への姿勢、素材へのこだわりにはじょう舌な寿幸さんだが、それ以外は無口。とつとつと妻を讃えた。「彼女は言語学者だから、自分の考えを言葉で表現できる。僕のことをとやかく言う人はいても、彼女に関しては誰も難癖をつけられないのです」(咲)
Kaiseki : 7 rue André Lefebvre 15e 01.4554.4860
これから相手に期待したいことは?
「期待はしないけど希望はする。自分の進む道を見つけてほしい」(寿)「いつか一緒に旅行して、田舎に小さな家を持つこと。一緒に孫の面倒をみる日が待ち遠しいわ」(エ)
前回のバカンスは?
「一度もバカンスをとったことがないわ!」(エ)
夢のバカンスは?
「トルコ、NY、マラケッシュ、南アフリカ、ポルトガル、スペインetc。彼はいつも一人で行けばというけれど、二人で旅がしたいの」 (エ)「彼女の願いにそえるようなバカンス。僕にはそれがよく理解できないのだけど…」 (寿)
最近、二人で行ったイベントは?
「ないわ。最近、気功をはじめたから、一緒に通いたい」(エ)
お気に入りのレストランは?
「ありません。僕は有機栽培派なので、お金を出して身体に悪いものは食べないのです」(寿)
カップルとしての満足度を5つ星でいうと?
ゴッホの『星降る夜』の星「僕が夢にみる永遠の星」(寿)
★★★★★「頑固一徹だしロマンティックでもないけれど、彼は彼そのものだから」(エ)
店内に飾られた色紙は、 二人の座右の銘。寿幸さんの姉が書いた。