2009年末、フロラン・ゴンサルヴェスはヴェルサイユ女子刑務所の所長だった。所長としては異例の39歳の若さだったが、刑務所内の規律に気を配りながらも服役者へのヒューマンな対応で評判がよかった。クラシック音楽を愛し、古い家具や切手を収集し、妻と二人の子供に囲まれた波風の立たない生活を送っていたのだが、恋に落ちてしまう。その相手は服役中のエマ、20歳。
2006年1月下旬、23歳のユダヤ人の青年が、グループによって誘拐されて監禁され、拷問を受け死亡した事件があった。首謀者はユッスフ・フォファナだが、犠牲者をおびき寄せるえさとして使われたのが当時16歳だったエマ。禁固9年の刑を受け、2007年9月からヴェルサイユ刑務所に服役中だった。当初、ゴンサルヴェス所長にとって、エマは普通の服役者にすぎなかったが、2009年、彼女が彼への愛を告白してからゴンサルヴェスの心が急激に彼女に傾いていく。手紙や電話のやり取り、彼が刑務所内の規則を破ってICカードを渡してからは絶え間ない往復メール…。所長は、彼女の母親を通じて300ユーロを差し入れたりもする。コンピューター室でひそかに2回にわたる性交渉。
こうした関係が刑務所内でばれないわけはなく、彼女が優遇されることに他の服役者は大いにしっとする。2010年に刑務所職員の訴えで、ヴェルサイユ検察局は取り調べを始める。2011年1月10日、ゴンサルヴェスは取り調べを受け、しばらく後に、免職処分。そして妻と子供たちは彼のもとを去る。「それまで私の人生だったものをすべてなくしてしまった」。昨年秋、エマは仮出所。その後のことをゴンサルヴェスは、テレビのインタビューに答えて「何度か会ったけれど、彼女は気が抜けたようだった。別れては会い、会っては別れるを繰り返したが、あまりに複雑になったので、二人で別々の道を歩むことした」と語っている。
今年の2月15日、ヴェルサイユ軽罪裁判所で、ICカード差し入れや使用、不法な往復書簡やメールを送り合った罪で二人の裁判が行われた。ゴンサルヴェスの弁護士は「被告は感情を制御できなくなっていた。彼は罪を犯したがそれは愛情からだ。一番美しい情状酌量の理由だ」と弁護。優遇されるための「策略的な愛」ではなかったのか、と問われたエマは「本当に愛していました」と答えるだけ。ゴンサルヴェスも「彼女は何の利益も得なかった。何も私に望まなかった。あってはいけない場所での愛情関係でしかなかったのです。再び同じようなことになっても、迷うことはないだろう」と陳述。元恋人の隣に座ったゴンサルヴェスは彼女の耳に何かをささやき続けたが、エマは自分の靴を見ているだけだったという。
二人に執行猶予付き禁固1年の刑が下ったが、ゴンサルヴェスは、刑が重すぎると控訴した。(真)