「カフェが担う役目はアートだ、と思った」

サンテチエンヌ市の町おこしのテーマ、「デザイン」を意識した界隈にあるギャラリーカフェが〈Le Café 9 Bis〉。経営者はステファノアのジャメルさん。サンテチエンヌのカフェが担う役目としてアートに着眼した彼の店には、ミュージシャン、演劇をはじめ芸術家のたまり場となり13年を迎える。奥にはホールがあり、コンサートやリハーサル会場として利用されている。「サンテチエンヌは、炭坑で働く労働者の町でした。その陰のイメージを払拭すべく登場した町のテーマ『デザイン』は、市の産業のひとつである猟銃の銃床(じゅうしょう)部分の装飾からスタートしたのです。元労働者、そして二世たちが今この町で暮らし、国立演劇センター、新設の音楽ホール〈Le Fil〉などを中心にアートと関わる人々が増えてきています。この店から巣立っていった人は多いですよ。小規模ながら、充実した雰囲気の現代美術館へ行かれてはどうですか?」とジャメルさん。
現代美術のコレクション(1万5千点)はポンピドゥーに次ぐというMusée d’Art Moderneには、ピカソ、レジェ、カンディンスキー、マニェッリ、ウォーホル,スラージュといった作品群。週末でももったいないくらいに入場者が少なく、じっくりと鑑賞できる。併設するレストラン(冬期は閉まっている)でゆっくり過ごすのもいい。
町の中心部に戻る。市庁舎脇には、立派な店構えの、チョコレートの老舗〈Weiss〉。以前はこの店の奥でチョコレートを作っていたが、いまは郊外で作っているという。「デザイン」の街を誇るかのような美しい内装、客足が絶えない。ここから南に3分歩けば、旧市街のような趣のブティック街だ。このあたり、19時過ぎは若者が集まる酒場街へと姿を変える。私たちはアイリッシュパブに入り込んで、肩を並べながらビールやウイスキーを楽しんだ。
日曜の昼ごはんが大変だった。歩いても歩いてもレストランは閉まっている。ようやく見つけたのは、前日にワインを飲みに寄った、観光客一切無視の、でも親切な庶民カフェの隣にある、庶民定食屋〈Grenette〉。前菜、メイン、充実したチーズの盛り合せかデザートで13€のコースを目当てに、地元の人々(お年寄りが多かった)がやってくる。胃袋が満たされた後は、アルコール55度、この地方特産のパジェスというお酒。この緑色、サンテチエンヌのサッカーチームカラーとまるで呼応しているかのようだ。(麻)

〈Le Café 9 Bis〉の店内。

アンソニー・カロの作品。

チョコレートの老舗〈Weiss〉

夜の酒場街Rue des Martyrs de Vingré。

地方特産のパジェス

庶民定食屋〈Grenette〉魚のスープがおいしくて驚いてしまった!
