全世界65カ国で、破裂する危険性のあるフランスPIP製豊胸用インプラントへの不安と抗議、告発が続出し、かつてない医療スキャンダルに発展。
ポリ・アンプラン・プロテーズ社PIPはこの20年間、不認可の原材料を使った豊胸用インプラント40〜50万個を輸出しボロもうけしてきた。だが1999年から米国はフロリダ、イリノイ、テキサス州などからPIP製品への告発が続出、09年末から同製品の破裂件数が輸出国で急増。ジャン=クロード・マス社長(72)を密告する、ある社員からの匿名の手紙により同社長は2010年10月、11年10月に詐欺・過失死致罪容疑で取り調べを受け、1月6日、不認可品の生産を自供。10月、元社員10人と共に重罪院で裁判。
PIPとマス社長の危険な冒険から破綻までを追ってみよう。ピレネー山脈に近いタルブ市出身のジャン=クロード・マスはワインやコニャックの販売業者だった。80年代から豊胸用インプラントに関心をもちトゥーロンの整形外科アンリ・アリオン医師と意気統合し、二人でMAP社を創立。91年、同医師の事故死後マス社長は南仏ヴァール県ラ・セーヌ・シュル・メール市にPIPを設立。南米で急速に販売市場が広がる。が、2000年に米国から締め出され輸出量が30%急減した。独学の「発明家」マス社長は、分散媒が水のヒドロゲルの使用を推し進める。彼によれば、この原料は生理的乳清とゲル化剤の合成で、認可規定にそっていると自慢し、流通販売業者も従業員らもそれを信じPIP製品を誇る。しかし05-06年に英国の移植者に訴えられ、PIPは損害賠償金230万ユーロを支払う。06年以降、仏国内でもPIP元社長他、流通販売業者に対する告訴が続出し、今日マルセイユだけでも約2400人余が提訴した。1月20日、アヴィニョン地方裁はPIPの保険会社(ドイツ系アリアンズ社)に原告女性(31)への損害賠償金4000ユーロの支払いを命じている。
2010年3月、医療製品安全局AFSSAPSの 不意打ち検査で検査官が工業用シリコン油 Silop W1000のプラスチック容器数個を倉庫で発見し、1カ月後にPIP製品の販売を禁止した。しかし20年間、いかにマス社長が不認可の安価な材料で豊胸用インプラントを製造し続けてこれたのか。
93年に原材料の規格認証が義務化され、EU 規格認証印〈CE〉を得るには、認証機関を介し2年間のテストが必要。PIP社は独系認証機関テュフ・ラインランド(テスト期間90日)から認証印を取得。マス容疑者はそれを得るために賄賂も使い、AFSSAPS局員の定期検査は10日前に予告が入るので、前日までに不認可材料を社員に隠させ、明細請求書なども隠蔽した。検査員は材料の成分までは調べず、検査証にサインしてきた。従業員らは高給の代わりに口止めされてきた。
12月23日、ベルトラン保健相は、フランス国内の約3万人のPIP製品移植者には、その摘出手術を無料にし、乳ガン手術後に移植した患者(30%)には代替品との交換手術も無料にすると表明した。移植後ガンにかかったという例も20件余出ており、いつ破裂するかもしれないPIP製品を胸に抱える女性たちの不安は如何ばかり。PIP事件は、乳房を女性美の一つとみなす現代社会への痛烈な詐欺行為であり、乳房願望者をエサにしたマス容疑者のような悪徳事業家がいたということだ。(君)