ニュージーランド(マオリ語でアオテアロア)に先住していたマオリ族の歴史、社会、文化、芸術についてのすぐれた展覧会である。ウェリントンのテパパ・トンガレワ国立博物館が企画した「マオリ族から見たマオリ」展だ。展示品はすべて、フランス語のほか、ニュージーランドの公用語であるマオリ語と英語で説明されている。先祖の土地や海域を守るための抵抗運動も紹介され、政治との関わりも含めたマオリの全体像を見せている。
通常「系図」と訳されるが、血縁だけでなく、部族、自然界の生物と非生物、世界の創造や宇宙との関わりをも含む概念「ファカパパ」が、マオリのアイデンティティの重要な柱になっている。
太平洋を航海してアオテアロアに到着したマオリにとって、先祖代々の舟をこぐことも、ファカパパの一つの現れだ。現代では、舟競技が、集団の絆を強め、アイデンティティを確認する役目を果たしている。会場には、最新の科学技術を使って再現した伝統的な舟が展示され、ビデオで舟競技の様子が見られる。伝統的な舟の先に付いていた、舟を守るための彫物の装飾も展示されている。
刺青も、ファカパパの表現の一つだ。家系によって模様が異なる。刺青を施した19世紀の木彫りの頭像、刺青を彫るのに使う伝統的な道具と最新の道具、刺青をした人々の古い写真、顔に刺青をしているときの食事のしかたの説明がある。刺青を顔にするのは、「家庭内暴力から逃れようと、地底の両親の元に逃げた妻を追ってきた夫が、地底で、刺青師である舅(しゅうと)から顔に刺青を施され、地上にその技術を持ち帰った」というマオリの伝説に由来する。20世紀初頭に消滅しかけていたが、近年復活した。あごに施した女性は、ビデオのインタビューで「人生が変わった。アイデンティティに誇りを感じている」と述べている。
このように、オブジェの展示だけでなく、それが実際どう使われているかを、ビデオをふんだんに使って見せている。伝統的な楽器の展示と、それを使ってみるワークショップのビデオもある。
どの展示コーナーでも、自分たちの文化を守り、継承していくというマオリの人たちの強い意思と文化への誇りが感じられる。(羽)
Musée du Quai Branly : 37 quai Branly 7e
1月22日迄(月休)。