ベルギーのコンビ監督、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟は『ロゼッタ』(1999)と『ある子供』(2005)で既にカンヌ映画祭の最高賞、パルムドールを二度受賞している。1996年の『イゴールの約束』の後、3年に一度のペースで誕生する彼らの新作は必ずカンヌのコンペに出品されている。今年もダルデンヌ兄弟の名前をコンペ作リストに見た時は、正直「またか」と思った。でも上映が終わるや「史上初の三度目のパルムドールもあり」と評判になった。結果は次点のグランプリだったがそれでもすごい! すごいのは、すごい賞を何度も獲ったからというだけでなく常に変わらぬ作品のクオリティーだ。
『少年と自転車 Le Gamin au Vélo』はシリルという父親に捨てられた少年の物語。捨てられたという事実を身をもって確認するまで彼は執拗に施設や学校からの逃亡を企てる。その最中に出くわしたサマンサという美容院を経営する女性が彼の後見人を引き受ける。彼女の辛抱強く寛容な努力をもってしても、シリルの深く傷ついた心はそう簡単には癒えない。一方で素直な性格のシリルは、近所の不良にまんまと欺されて強盗を働く。事件は示談という形で落着するのだが、その先に復讐(ふくしゅう)劇が待っていた。……その結末が、この映画を神々しい域に到達させる。パルムドールの呼び声も納得だ。ダルデンヌ兄弟のリアル演出は、無駄を省き効果的。幾らでもメロドラマにもっていける内容だが、決してそちらには傾かない。映画に対する監督の高貴なアプローチが名作を生みつづける。「またか」と思ったが「またも」素晴らしい作品を有難う! 新人発掘もダルデンヌ兄弟の得意技だが今回はセシル・ド・フランスを起用して大正解。演技しないところが大好きな女優。(吉)