
フランスは2011 年を〈メキシコ年〉とし、年間とおして360種のイベントや大展覧会、コンサートが開催されるための準備が進んでいた。それなのに3カ月前の2月14日、サルコジ大統領が、「メキシコに拘禁されている仏女性フロランス・カセ*に〈メキシコ年〉を捧げる」と口走ったものだから、メキシコのカルデロン大統領が激怒し「メキシコ年」から完全に手を引くと宣言した。外交と刑事問題をないまぜにする仏元首の尊大さ、詭弁(きべん)に怒るのは当然。その日その日サルコジ大統領の思いつき発言で、数年前から準備されてきた「メキシコ年」関係者たちのほとんどのプロジェクトが流産に終るようだ。
ヴィエンヌ県のサンローマン・アン・ガル美術館では2月18日に開かれるはずだったヴェラクルーズ・アンティーク展への作品が到着して2日後にメキシコ大使命令で再梱包し返送するというドタバタ劇! 3月1日に開催が予定されていたピナコテック私立美術館(マドレーヌ脇)での〈マヤ文明ヒスイ彫刻展もボツとなり、会場設計費30万ユーロ、広告費70万ユーロ、入場料予想額 600万ユーロがフイに。同館責任者は「大事なプロジェクトを台無しにさせたサルコジ大統領の尻拭いは政府がすべき」と高姿勢。急きょ、名作BD『コルト・マルテーゼ』の著者ユーゴ・プラット(1927-95)の回顧展(8/21迄)と「エルミタージュ美術館作品展」(5/29迄)に切り替えた。
ボルドーで3月10日から開催予定だった〈ディエゴ・リヴェラ展〉、パリ国立近代美術館でのメキシコ現代作家展(6/10〜)、秋に予定されているプチパレでの〈ルフィノ・タマヨ展〉、オランジェリー美術館での〈フリーダ・カーロとディエゴ・リヴェラ展〉、オルセーでの〈1810〜1920メキシコ美術展〉、アルル国際写真展でのメキシコ写真家展(7月)。そしてトゥールーズでメキシコのミュージシシャン130人余が参加するはずだった「リオ・ロコ」フェスティバル(6/15-19)主催者は、〈メキシコ年〉というラベルをはずし別個のイベントにする方針だが、計画したプログラムの20%に削減。これらの展覧会やイベントへの運送・保険・通信・参加予定者1200人の航空券などをメキシコ政府が負担し、すでに2200万ユーロを出資している。
映画部門も同様、シネマテークで「1950年代メキシコ・メロドラマ特集」ではロベルト・ガバルドン監督特集を予定していたが、メキシコのシネテカが参加を拒否。パリ・シネマフェスティバル(7/2-13)主催者も1年前からメキシコ作品の字幕やプログラムの作成を進めてきただけに中止することもできず、どうしようかと頭を抱えている。全国の「メキシコ年」関係者が唖然(あぜん)とするなかで、サルコジ大統領の放言が生んだ大異変については文化省、外務省とも口をつぐんだまま…。(君)
*フロランス・カセ(36)は誘拐犯グループに属するイスラエル・ヴァラルタの元恋人。05年12月8日、3人の誘拐・監禁共犯として逮捕され、08年に96年の懲役刑が下り、09年3月上告審で刑期60年に。2月11日、破棄院で60 年刑が確定した。
