ほんの数年ですっかりスターの顔に変わってしまう人がいる。現在、主演作『Angèle et Tony』のポスターが街を彩るクロティルド・エスムもそのひとり。ハスキーボイスとカラカラ笑う無防備な陽気さは、同性にも好感度が高そうにみえる。1979年、オーブ県トロワの田舎町で3人姉妹の末っ子として誕生。公務員だが趣味でオルガンを弾く父、絵をたしなむ母から芸術的感性を受け継いだ。2人の姉もそれぞれ女優、脚本家&監督の卵として映画界で活躍中だとか。10代後半でパリに出て、国立高等演劇学校やフロラン演劇学校に籍を置く。舞台や映画で徐々に端役をつかむが、5月革命に揺れるパリの若者たちを描いたフィリップ・ガレルの映画『恋人たちの失われた革命』(05)のリリー役で一躍注目を浴びる。クリストフ・オノレの『Les Chansons d’amour』、『美しい人』、ベルトラン・ボネロの『De la guerre』、ラウル・ルイスの『Mystères de Lisbonne』など話題作に次々出演。先鋭的な監督ともかなり相性が良いご様子。現代劇からコスチューム劇、はたまた尻軽女から男性役(!)まで、果敢な挑戦もいとわない。最新作の『Angèle et Tony』では、義父母から愛息を取り戻そうとする粗野なシングルマザーに扮し新境地を開いている。(瑞)