アメリカのハードボイルド小説の影響を受けながらフランスで生まれたロマン・ノワール。ジャン=パトリック・マンシェット(1995年52歳で死亡)は、70年代初めに登場し、この分野を一新した。極左の立場を貫きながら、パリやパリ郊外を舞台に、腐敗した警察、政治家たちも登場させながら、行き場のないような暗いエンディングに導いていく。
マンシェットとタルディとの出会いは1978年の『Griffu』。借金取り立てなどで生活するグリフュが、好きな女のためにパリ下町にある屋根裏部屋に侵入したことから、大金の絡む、予想もしていなかった殺人劇に巻き込まれていく。映画のシナリオも書いてきたマンシェットの書き下ろしが,タルディの、登場人物の体温が感じられるような描写と、みごとなコマ割りで、メルヴィルの映画作品を思わせる傑作に仕上がった。
この新作は、マンシェットの代表作のコミック化。主人公のマルタン・テリエは、当たり前の顔をした非情な殺し屋。英国での仕事を終えて大金を得、ここで足を洗おうと、シトロエンDSに乗って10年前に別れたアリスに会いに故郷に戻る。ところが、以前の殺しの復しゅうがあり、愛するネコが腹をえぐられ、愛人が殺害され、大金を預けた男がそれを全部使い切って自殺する…。夜の高速や雨に打たれるパリの町並みの描写は、タルディならではの雰囲気。唐突に殺される瞬間の被害者の表情や、その血しぶきは、第一次世界大戦の悲惨な戦場を描き続けるタルディならではの迫真力だ。(真)
Futuropolis発行。19€。