牛肉の煮込み料理、ポトフ。肉や野菜のうまみが出たブイヨンは、ブイヨンの王様だ。
題名は忘れてしまったけれど、マルセル・パニョルの映画に、フェルナンデル演じる農作労働者が、台所のでこぼこテーブルに座って、女主人が注いでくれたスープを食べる(フランス語ではmanger de la soupeという)というシーンがある。働き疲れた後の夕食だというのに具がほとんど入っていない! そのスープに、パンの大きなかたまりを浸してむしゃむしゃ食べるフェルナンデルの姿が忘れられない。
昼食中心のフランスでは、夕食に今でもスープを出し、後はチーズやサラダで済ますという食習慣が残っている。「souper」という動詞、最近では芝居がはねた深夜過ぎなどに「夜食をとる」という意味になっているけれど、以前は即「夕食をとる」ことだった。
そんな夕食がわりのスープの代表は、ジャガイモに長ネギというベーシックなもの。それだけに飽きのこないスープだけれど、子供時代に「これを食べると大きくなるのよ」とか「優しくなれるのよ」と母親に押し付けられた心の傷は深く、スープ嫌いになるケースが多いという。デュラスは、彼女のエッセーや新聞記事などがまとめられた『Outside』の中で「このスープの味と再会するためにはまだまだ時間と、年月がかかるだろう」と前置きしてから、彼女流の作り方を記している。「2時間ではなく、15分から20分火を通せばいいのです。フランス女性すべてが野菜やスープを煮過ぎる。そして、長ネギはジャガイモがすっかり柔らかくなってから入れる方がいい。そうすると(ミキサーや裏ごしにかけた後)緑色がきれいだし風味もよい。長ネギの量にも気をつけなければならない。ジャガイモ1キロに対し、中くらいの長ネギ2本で十分です」
最近になって、ベジタリアンが増えてきたり、有機栽培野菜への関心が高まったりということもあってか、スープが名誉回復している。パリにも何軒かスープ専門のレストランがオープンした。スープのレシピ本もブームになっている。
寒い時に、熱々のスープをふーふーいいながらすする幸福感。心まであったか~くなってくる。そんなスープたちを紹介する保存版の特集です。(真)
bouillon, soupe, potage
ブイヨンは一般的に、肉、トリ、野菜のうまみを引き出したお澄ましのこと。スープとポタージュは、最近ではほとんど同じように使われているが、スープはどちらかというとあまり手のかかっていないシンプルなもので、野菜や肉を切ったものがそのまま入っていたりする。ポタージュはもう少し手がかかったもので、なめらかなクリーム状のものが多い。
文・写真:佐藤真(レシピ)/アトランさやか