教育を受けることは普通だと思っていたが、 西アフリカのマリで、普通ではないことに気づいた。
大学で美術史を専攻していたマチルドさんは、卒業間近まで、教員になるとは夢にも思わなかったそうだ。その当時つき合っていたボーイフレンドが、農業技師として、西アフリカのマリへ6週間滞在することになった。「ちょうどバカンスの時期だったので、私は彼に付いて行ったのです。多くの人々と接して話す機会に恵まれました。特に女性と接することが多く、彼女たちの読み書きのレベルを知ったとき、普通だと思っていた私の受けた教育が、ここでは普通ではない、ということに気がついたのです。その時点で、私は教員になることを心に決めていたのでしょうね」。義務教育という名のもとで私たちが受けている教育を再確認した時、自ずと将来の道が見えたのだ。
マチルドさんは、CAP(教員免許)取得後、幼稚園、小学校で3年間の研修をこなし、今年から臨時の教員としてナンテール市内の公立小学校に派遣されている。
前日の夜に、翌朝行く学校からの要請を受け取り、準備。朝8時50分には授業が始まり、お昼休みはランチをとりながら、校長先生から渡されるプランニングとにらめっこ。「午後もみっちり4時30分まで授業があるので、フランスの小学校の授業時間は長いと思います。子供たちも、終わりに近づくほど集中力が欠け、クラス全体がぐったりした雰囲気になりますね」
学校内では、常に同僚と絶えず情報交換をしながら、個人としての負担ができるだけ少なくなるようなチームワークが重視されている。「校長先生がいますが、私たち教員の直接の上司ではありません。私たちは教育委員会に雇われている、という形になっています」。教育委員会が今年から施行する法律では、CAPを取得すると、研修をしなくてもすぐに次の新学期から授業が持てるのだという。しかしマチルドさんは、このシステムには反対だ。
「この半年間、子供たちの反応を見ていると、このシステムのマイナスの点がいろいろと見えてきます。研修をしなかった新米先生の不安は、どうしても子供たちに伝わってしまうのです」
生徒たちの親と教員の関係は、学校がある地域によって異なるという。「友人は裕福な家庭の多いヌイイの小学校に勤めていますが、親の学校に対する干渉にやや疲れているようです。それとは逆に、まったく親が教育に興味がない、また、両親がコンプレックスをもっている地域もあります」
彼女のクラスには肌の色、習慣が違う子供たちが混ざり合っている。「隣りの席には、自分と違う子がいる。こういう環境であるからこそ、違うということは豊かさだ、と子供たちに伝えたいですね。1クラス20人から25人、彼らに何かを教えても、社会はまったくもって変わらないということはわきまえていますが、それぞれが違う人間なんだ、という普遍的なことを、学校で学ぶことが大切だと信じています」
算数、音楽、朗読、読み書きなどの授業を一人でこなし、子供たちが校庭で遊ぶ中、宿題の採点をする彼女の姿は、充実感に満ち溢れていた。(麻)