先日、71歳になるマダム・ダニエルの助手席に乗る機会があった。ダニエルさんは小柄で元気なパリジェンヌ。以前ナシオン駅の近くでカメラ屋さんを営んでいた彼女は、車に乗る時はいつも旦那さんの助手席だったので、きっと運転はやめてしまったのだろうと思っていた。
ある日のこと、私の銀歯が急にとれ、いつも助けてくれる友人は海外出張中。頼れる人はダニエルさんだけ、という緊急事態が発生。その時ちっちゃなプジョーで自宅まで迎えに来てくれた彼女は、「あなたは道がわからないでしょ、私の車で、しっかり歯医者まで連れて行くわ」と、助手席に招いてくれた。
「内心、神にも祈る思い」といったら失礼な話だが、今まで60歳以上の方の助手席に乗ったことはないし、何より日本で70歳を超えて運転している人は本当に少ないので、無事にたどり着けるだろうか、と不安になってしまった。
その不安感は、ダニエルさんがエンジンをかけ走り出した瞬間、安らぎに変わった。アクセル・ブレーキは、風船を優しく踏むようにじわーと踏み、戻す時も同じようにじわー。ハンドルは、切り始めからしなやかで、無駄な動きが一切ない。コーナリングは軽やかで、車が全然揺れないのだ。
私は、今まで数々の自動車メーカーで、10年にわたりドライビングインストラクターとして何千人もの人たちに運転を教えてきたけど、こんな上手な運転をする女性は初めてだ。男性にだってなかなかできることじゃない。本当に上手な運転とは万国共通だ。第一に無事故、第二に同乗者に不快感を与えないスムーズで滑らかな操作をすること。自分でできていると思っていても、実際はほとんどの人ができていない。
目的地に到着したら、マダムはバックでスラリと車列に入り前後の車を優しく押し出し、縦列駐車を完了。う~ん、初めて女性ドライバーに運転テクニックで圧倒されてしまった。(和)