暑い夏こそ、ハマムでリフレッシュ!

神秘的な未知の世界、ハマムを満喫する。

 バルベス街にあるこのハマムに入るには、誰か友人のアパルトマンを訪ねる時のように、扉脇のボタンを押すようになっている。木の扉を開けるとごく小さな中庭があって、そこの石階段を上ったところが美容院、その先がハマムの受付になっている。アシアさんによると、ここはパリでも最も古い方に属するハマムで、創業は1960年代くらいとのこと。ハマムは80年代ごろからパリでポピュラーになって、今ではスポーツクラブやホテルのスパなどでも見つけることができるようになったけれど、その元祖ともいえるハマムだ。迎えてくれたのは、アルジェリア出身のジルールさん。日本人の感覚からすると驚くほどの小さなおけに、チャリンとロッカーのカギを入れて渡してくれた。
ロッカーで水着に着替えて浴室へ向かうと、ヘンナ*を体中に塗っている人、髪や体を洗っている人、軽石でかかとの角質と闘っている人など、湯気がもうもう立ち込める中、女性たちがそれぞれ自分の世界に没頭している。アシアさんに「みんな、パンツをはいてるくらいよ」と聞いてはいたけれど、それは本当だった。浴室の角に設けられた、あかすりのコーナーでは、巨大な体を横たえた女性を、やはりパンツを一枚だけはいただけの女性が力強くこすっている。ごくたまに水着を着た若い女性たちもいるけれど、年配の女性たちは堂々としたもの。そんな様子を前に多少びっくりしたけれど、よく考えてみたら日本の温泉や銭湯では誰も水着など着ないわけで、とりたてて驚くことでもない。気をとりなおしてまずはお湯で体を流すことに。このハマムには大きな湯船はない代わりに、それぞれが小さな洗面台に陣取って、そこに張ったお湯なり水をおけですくって使うシステムになっている。体をゆったりと湯船につけることができないとはいえ、一人に対して洗面台が一つ、というシステムは衛生的といえるかも。体にとってももちろんいいし、
精神的にも欠かせないわ。
週に2、3回はハマムに来るのが理想。
さて、アシアさんにならい、まずは高い洗浄力で知られる練り石けん〈Savon Noir〉を手に取って体中に塗っていく。背中など塗りにくいところは、友だち同士はもちろん、その場にいる誰かに声をかけてやってもらったりするところなんかは、下町情緒にあふれている。これを塗り終わったら、いざ、蒸気が立ち込める蒸し風呂へ! パレオを敷いて石の台に腰かけたり、寝そべったりして、他愛もないおしゃべりをしながら待つこと10分から15分。汗がよく出たところで、浴室の洗面台でかけ湯をして石けんをしっかり流す。心なしか、すでに肌がしっとりしているような気がするが、肝心のあかすりはこれからだ。買ったばかりの手袋〈kassa〉をお湯にひたして、しっかりしぼってから体をこすっていくと、これでもかというほど、あかが出てくる出てくる…。初めはなんだか気恥ずかしいものだけど、やっていくうちにだんだん面白くなり、最後はすっかり夢中になってしまった。顔も、そっとなでるようにこすっていく。これが意外と時間がかかるものなので、ゆだってしまわないように、洗面器に水を張ってかけたり、浴室に備えてあるシャワーで冷水を浴びたりしつつ根気よく…。ミネラルウォーターで水分補給をすることも大事だ。

すっかり浄化されて、肌がつるつるになったところで、浴室の隣にある休憩室へ。おしゃべりをしたり、水分をとったり、果物を食べたり、好きなことをしてひたすらリラックス。あかすりで体からは毒素が取り除かれたようで、緊張していた筋肉もすっかりほぐれている。「日常生活とまったく切り離された、こんな時間を過ごすことは私にとってすごく大事なこと。体にとってももちろんいいし、精神的にも欠かせないわ。毎回3時間というわけにはなかなかいかないけど、週に2、3回はハマムに来るのが理想ね」とアシアさん。いつも笑顔が美しい秘密は、そんなハマム通いなのかも。
さて、休んだ後はもう一度蒸し風呂で汗を流し、最後にシャンプー、そして、〈ghassoul〉(粘土)の出番となる。粘土に熱いお湯をかけてかきまぜると、乾燥していた土が溶けて泥のようになる。それを、髪の毛を含む全身に丹念に塗っていく。気軽にできる100パーセントナチュラルのこの泥パックは、中世から北アフリカや中東で使われていたという。肌や髪から不純物を取り除き、つやと柔らかさを与えてくれるこのパック。その効果は、髪の毛を洗い流した時からすでに実感できる。「髪の毛に残るとその後重くなっちゃうから、よーくすすいでね」と声をかけてくれるアシアさん。
次は歯磨きタイム。クルミの木の皮を乾燥させたものを、まずはよくかむ。そして、皮が柔らかくなったところで、それを使って歯茎をマッサージするように往復させる。口の中がすっきりするのに加えて、歯茎と舌がほんのりオレンジになり、歯の白さが強調されるのだという。
「最後の仕上げは、アルガンオイル**をたっぷりと塗って保湿をするのよ」と高品質で知られるオイルの瓶を手渡してくる彼女は、最後まで面倒見がよい最高の案内人でした。


さっぱりした顔でハマムから出てきたアシアさん。粘土バックの効果で、髪もしっとり、さらさら!

 


約15年前からここで働くジルールさんも、もちろんハマム好き。


浴室の壁のタイルはピンクがベースの柔らかい色調。洗面台の横にあるスペースに腰かけて、髪や体を洗う。


地下にある男性用ハマムは、色鮮やかで繊細なモザイク模様の壁に囲まれた美しく静謐な空間。


クルミの木の皮の歯磨き。

*ヘンナ(ヘナ)henne

ヘンナは、原産は北アフリカとも西南アジアともいわれる低木。その白い花は、イスラームの世界では天国に咲いているとされているという。その葉を乾燥して粉にしたものを、ローズウォーターや紅茶、レモンのしぼり汁などで溶いてペースト状にし、これを絞り出すようにしながら花嫁の手足に美しい模様を描く作業には、魔よけの意味が込めらているという。練り石けんと混ぜて肌のトリートメントにも使われる。またヘアダイとして使うと、染色効果だけでなく、髪の毛につやが出る。

**アルガンオイル huile d’Argane

モロッコを旅すると目につくのが、大地にはいつくばるようにして生えているアルガニエの木。時々ヤギが新芽を求めて登っていたりする。
この木の実を圧搾してとった油がオルガンオイル。食用とコスメ用の2種類がある。前者は実を焙(ほう)じてから圧搾したもので、ゴマ油やクルミ油を思わせる香りがあり、有名シェフの間で注目されている油だ。コスメ用は焙じることなく圧搾したもの。ビタミンEを多く含んでいるため、肌の老化を防ぐのに効果があるという。1リットルの油をとるためにアルガニエの木6、7本が必要とされるというだけに,高価な油です。

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