今日、65歳以上のフランス人は1400万人、人口の21%を占める。1983年ミッテラン政権が定年年齢を65歳から60歳に下げて以来、国民の8割は60歳前に定年退職している(平均58歳、16歳から働いた労働者は56-57歳)。EU諸国の平均退職年齢は65歳(スウェーデンは61~67歳)。英・ドイツは2、30年後には67歳に引き上げる予定。1月29日スペインのサパテロ首相も財政困難の中、同じ方針を表明している。
1月17日、自認プラグマティスト、マルチーヌ・オブリ社会党第一書記が「退職年齢を61、62歳にするのは避けられないだろう」とうっかり政府案同調の発言をしたから党内に火がつき、彼女自身が前言を撤回し、定年年齢60歳を堅持すると発表。高齢者の増加、膨大な年金赤字財政を抱える今日、保険率を上げるか、満期を延ばすか、年金額を下げるか、労務の苦痛度を考慮に入れるか…などサルコジ大統領は年金問題という爆弾を抱える。03年制定の現行フィヨン定年改革法の主な点を追ってみよう。
年金制度は民間・公務員・自由業の3種37制度に分かれている。いずれも基礎年金に補足年金(一般社員Arrco/幹部Agirc)が加算される。満額に必要な払込み期間は160四半期、40年。95年バラデュール法により公務員も満期37.5年から40年に統一され、2012年からは官民とも41年に。
民間の基礎年金は最高受給年25年の平均給与の50%だが物価指数スライド制なので実質43%。補足年金約14%が加算される。公務員は最終勤務期間6カ月の平均給与の75%、と官民制度間の格差が著しい。
大学就学や養成により、実社会に入るのが30歳前後という就業者が増えており、保険支払い年数が不足する場合、不足年1年につき基礎年金から5%減額される。不足年は12四半期(3年)まで買取りでき、買取り額は四半期4000ユーロと高いが税控除される。あるいは70歳まで企業は社員を強制退職させられないから、70歳まで勤務しつづけるか。または60~65歳で定年退職し、年金をもらいながら6カ月後から同企業に復帰できるが、給与は年金と合わせて最終給与額を越えてはならないから顧問、パート職に向いている。
母親への優遇として、1子につき保険払込み期間に2年加算されてきたが、2010年からは1年を母親に、育児休暇をとった父親に残りの1年が与えられる。3人の子持ちには基礎年金額が10%増(補足年金Arrcoは 5%増 /幹部Agircは8%増)。どおりで子だくさんの幹部が多いわけだ。
配偶者死後の生残配偶者への名義転換年金は、所得上限未満なら故人の基礎年金の54%、補足年金の60%を55歳から受けられる。
公的年金では暮らせない人が増えているなか、不動産所有者は生存中にヴィアジェ方式で売却し、頭金を得た後、残金を終身年金式に受け取るか、または銀行・保険会社が勧める積立企業・個人年金Assurance Vieに入るか。誰もが定年後2、30年は生きられる今日、老後の経済的安定は年金だけに頼っていられないのが現状なのだ。(君)