『歯の悲劇』

●Vers toi terre promise
 副題は『歯の悲劇』。第二次大戦後のパリ、歯科医の待合室で幕を開ける。歯科医の妻と患者がハンカチで目をぬぐいながら話し込んでいる。虫歯が痛むのか?  いやそうではない。歯科医の妻は強制収容所に送られ命を落とした次女の運命を嘆き、患者はやはり収容所に送られ行方不明になった夫のことを思い涙を流す。そこへ現れる歯科医は「またか」という顔をして患者を診察室に入れる。別の患者は男性で、戦争で家族をなくし再婚したはいいが、新妻は前夫と自分を比べて嘆いてばかり、と歯科医に訴える。「先生よりいい腕の歯医者はいるんだがね、先生と話すことが治療のひとつだった」とイスラエルへ定住すると決めた歯科医との別れを惜しむように患者はもらす。そして唯一残された長女がユダヤ教を捨て修道女になるという新たな「悲劇」が歯科医夫婦を襲う。「私たちがいったい何をしたというの?」と眠れない夜に夫婦は語り合う…。
 本当に悲しい戯曲のように思われてしまいそうだが、会話の中、仕草の中にはたくさんのユーモアが含まれている。私たちは笑いながらその裏に隠れた悲しさや切なさに心を打たれる。作者ジャン=クロード・グランベルグは、実の父親を強制収容所で亡くしている。この戯曲は、彼が少年時代に通い、母親から話を聞かされた歯科医一家の悲劇を思い出しながら書いたのだという。歯科医シャルルを演ずるフィリップ・フレタンをはじめとした4人の役者は秀逸で、照明、音響などもよく考えられている。演出のシャルル・トージマンとアシスタントのゾアール・ヴェクスレーに喝采を贈りたい。(海)
Théâtre Marigny Salle Popesco :
Carré Marigny 8e  01.5326.7020
火-土21h、日16h。29-39€。