16世紀のヴェネツィアで活動した画家、ティツィアーノ(1488/90-1576)、ティントレット(1518-1594)、ヴェロネーゼ(1528-1588)を中心に、彼らの作風の違いと、画家同士のライバル意識が作品に与えた影響を考察するのが、この展覧会のテーマである。
ここで扱われるのは16世紀後半。ヴェネツィアでは、画家たちが、大メセナである貴族、富豪、教会の注文を競って受注していた。大御所は、ヨーロッパ中の王族や大貴族たちから賞賛を得ていたティツィアーノだ。染物工の息子で野心家のティントレットは、一時ティツィアーノの弟子になるが、すぐに独立し、師匠のライバルになり始める。そして1553年、10歳下のヴェロネーゼがヴェローナからヴェネツィアにやってくる。ティツィアーノの庇護を受けたヴェロネーゼは、やがてティントレットの手ごわいライバルになった。
会場は、作品のテーマ別に構成されている。特に素晴らしいのは、〈Reflet et l’Eclat 反射と輝き〉と題された3室目だ。ティツィアーノの『La femme aux miroirs 鏡を見る女』では、陶器のような若い女性の顔に、自分の美のはかなさを知っているかのような表情がよぎる。ティントレットの『Suzanne et les vieillards スザンナと長老たち』は、ティントレット作品の白眉である。水浴中のスザンナがよこしまな思いを抱く長老たちから覗き見されるという、旧約聖書の話が題材だ。バラが咲き、鹿がいる庭園で、宝石をはずして水浴するスザンナの柔らな美しさが、愛らしい風景によく合っている。
ヴェロネーゼはというと、ルーヴルの常設展の『カナの婚礼』とどうしても比べてしまい、この展覧会にある作品が物足りなく思えてくる。
ギリシャ神話のダナエを主題にした最後の展示室では、品格とエロティスムが見事に融合された、ティツィアーノのダナエが見られる。孫に殺されると予言された父王から、孫ができる機会がないようにと塔に閉じ込められた王女ダナエを見初めた全能の神ジュピターが、金の雨となって寝室に降り注ぐ。恍惚として天を仰ぐダナエには、神に愛された女性にふさわしい優雅さがある。(羽)
ルーヴル美術館。2010年1月4日迄(火休)。
Titien “Danaë” vers 1553-1554
129.8 x 181.2cm
©Museo national del Prado, Madrid