●第62回カンヌ映画祭報告。
トリアー、ハネケ、ノエ、タランティーノ、トー、スレイマン…。1月前にコンペに参加する監督の名が発表された時、今年は特に映画の「過激派」が多い気がした。彼らは自分の信じる道を突き進み、タブーや実験を恐れない。思えば今年のカンヌ映画祭のポスターはアントニオーニの作品『情事』のワンシーンからとったもの。『情事』といえば半世紀前のカンヌで激しい賛否両論を巻き起こしたことで有名だ。この作品をポスターに使うところに、「監督たちよ恐れるな! 私たちが味方だ」とでも言いたげなカンヌの思いが伝わってくる。そんな映画祭の意志を受け、今年は監督らの大胆な挑戦を前に、観客の「好き嫌い」がはっきり分かれる作品が目立った。
監督賞を受賞したフィリピンの監督ブリリャンテ・メンドーサの『キナタイ』、審査員賞を受賞のアンドレア・アーノルドの『フィッシュ・タンク』とパク・チャヌクの『サースト』、そして「偉大なる失敗作」として輝くギャスパー・ノエの『エンター・ザ・ヴォイド』とラース・フォン・トリアーの『アンチキリスト』。それに引き換えてツァイ・ミンリャンの『顔』は、美術館メセナとヌーヴェル・ヴァーグの思い出の上にあぐらをかいた、見せかけだけの過激映画だった。
肝心の賞レースだが、もともと過激派で名高いミヒャエル・ハネケが『白いリボン』で最高賞のパルムドールを受賞した。しかし今回は人間の悪意を静かに見つめる大人の作品に仕上げた。下馬評で最も評価が高かったジャック・オディアールの『予言者』はグランプリに留まった。そして巨匠アラン・レネは、日常ファンタジーコメディ『ワイルド・グラス』で特別賞を受賞した。一般に監督というのは、歳とともに大仰しいテーマを選び「大監督」ぶりたがるものだが、87歳にしてレネはさらに軽みの境地へふわふわ漂うのだ。実は彼の監督としてのあり方そのものが、どんな過激な映画よりも過激なのかもしれないと思った。(瑞)