ロンドンから帰ってきた友人が「テイト・ブリテンのフランシス・ベーコン展(来年の1月4日迄)は、代表作が揃っていて圧倒的だった」と言いながらプレゼントしてくれた一冊。タイトルにある〈7 Reece Mews〉はベーコンのアトリエがあったところ。狭い階段を昇った2階にアトリエがあった。ドアを開けると、そこは足の踏み場もない戦場!
ビンや缶に入っている恐ろしい数の筆が林立し、絵の具のチューブや絵の具をぬぐった布が区別ができないほどに重なり合い、壁はいたるところ、色をチェックするために塗りつけられた絵の具が厚い層をなし、黒や赤や黄が飛び散り、部屋の隅にはシャンパンやウイスキーの入っていた段ボール箱が積み重なっている。
そして床に散らばる新聞の切り抜き、絵を描くときの題材やインスピレーションのもとになったと思われる写真たち。パンツをはいただけの恋人ジョージ・ダイヤー、格闘する二人の男、闘牛、ゲイ雑誌の表紙、火傷を負った男の顔…。スーラやベラスケスの画集も転がっている。そういえば、ベーコンは、ベラスケスの『法王インノセント10世像』を下敷きにした傑作を描いているが、一度も実物を見たことがなかったという。
ページをめくっていくと、この壮絶なまでの混乱から、ベーコンのどこまでもさめた意識が立ち昇ってくるのが、ぞくぞくっと感じられるのだ。(真)
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